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ひらめき☆マンガ教室合同誌3冊の感想 チームB「読めば、聴こえる。」編 #ひらめきマンガ

当然、感想を書こうと思う

 第4期のひらめき☆マンガ教室の課題には毎回感想をあげているので、今回の合同誌にも、当然、感想を書こうと思う。ただ今回はいつもの課題作のように、課題があって作品があるような形ではなく、本があってその中に作品があるので、単に作品単体での感想を並べ立てるのは違うように感じる。
 なので、最初に全体への感想を書いて、それからそれぞれの作品やコーナーについての内容的な感想を載せるという体裁で行こうと思う。

 ちなみに、この記事はチームBについての記事です。他チームの記事もよろしく!

 チームA「欲 その望みは破滅―。」の感想はコチラ
 チームC「ふれたい。」の感想はコチラ

 

 

感想本編

 

○本全体についての感想
 この本は、表題にある「音にまつわるアンソロジー」という紹介がまさしく代表しているとおり、気軽に読める清涼飲料水のような本だった。形式として”作品→テーマトーク(≒あとがき)→コラム”のループの体裁をとっており、そのテンポが心地よい。また「推しコメ!」や「コラム」など、マンガ以外の読み物が豊富な点は、わたしのような単にマンガが読みたいだけではない読者には嬉しかった。
 ただ読んでいてやや物足りない感じがしたのは、タイトルの回収があまり感じられないことだ。本を開く前にタイトルから期待感があったのだが、その期待に対する明確な着地点は感じられず、肩透かしを食ってしまった。つまり、この合同誌を「読めば、聴こえ」たのだとして、ではそのように感じられることを読み手がどのように価値づけするとよいのか、明確な指針を感じなかったということだ。ただ決して誤解してほしくないが、一つ一つの作品やコラムの出来は良かったし、それぞれに回答をしていることはわかる。ただ、一つ一つは回答を出しているのだが、この合同誌を読んでの回答は感じられなかった。なにか悪い意味で「読めば、聴こえる」ことの着地点が読者にゆだねられていしまっているように感じる。それがもったいない。

 

 

○一言コメント


・タイトル 「読めば、聴こえる。」
コメント:3誌の中では一番惹かれるタイトル。爽やかそう。

 

・表紙
コメント:このイラスト、よく見てみるとちょっと変。読んで聴こえてるところに、さらになにか言われているのか。それとも読んでいるところにささやかれることで何かが聴こえるようになったのか。しかし、だとすると読むだけでは聴こえないということなのか。いったいどういう状況なんだろう。

 

・読めば、聴こえる。◎もくじ
コメント:ちょっと見づらい。けど、なんかかわいくて良い。

 

・音無しさんを許さない!:清水しの
コメント:音無さんが「ふ/ふふふふふ」って言うセリフの後にページをめくると、普通にかわいい音無しさんが出て来るところ。ずるいと思う。
・Theme talk
コメント:少女腹鳴り問題って、感覚的に全然よくわかんないんだけど、実際にあることだと書いてあり、「伝説は本当だったんだ!」くらいのノリで解説を眺めている。なんてやさしい心で描かれた話なんだ。

 

・モノラルラブ:横たくみ
コメント:圧倒的青春感。ラストの夏の夜っぽい感じ、あー戻りたいなあのころに。いやこんな甘酸っぱい青春、自分送ってなかったはずですけど。…。
・Theme talk
コメント:「ロック好きの女の子を主人公に、青春っぽい恋愛漫画になればという気持ちで描きました」まんまだけど、だがそれがいい。ちなみに、映画『花束』を見たわたしは、この主人公ちゃんが恋愛をしたあとにキャンバスに絵を描くことをやめるのではないか、という予想を立てている。

 

・コラム/イマジナリーサウンド:天草仁郎
コメント:「作家は音をイメージし、それを漫画という表現形式に翻訳したはずだ。」ってあるけどあんまりそうは思わないかな。実態は分からないけど。グルメ漫画を描く漫画家さんが、実際に料理をしてから描くわけじゃないよ、と「んなわけないじゃん」という調子で話していたのをどこかで聞いた記憶がある。それだけに依拠するわけではないけど、漫画の中で作家が観念的な音を盛り込もうとするとき、それとよく似たことをしているのではないかと思っている。つまり、現実の音と作品に表れる観念としての音はちょっと違うのではないかと。

 

・シドラミソ:畑こんにゃく
コメント:この本の中で一番刺激的な作品を選べと言われたら、一目散にこの作品を選ぶ。読んで思わず唸った。この話、これでも初案よりもマイルドにしたんじゃないかなとなんとなく思う。なんだか、表面的に描かれている以上に、本当は不気味なエピソードを描いている作品のような。そういう怖さがある。
・Theme talk
コメント:ここにかかれているエピソード自体、あまりにもショッキングな話で、こういう作品が生まれることに納得した。しかし、この作品だけでなく他の作品からも感じる、この圧倒的な畑的世界観はなんなのだ。

 

・ラブソングのないサイドB:広木素数
コメント:「B面」っていうのはこの場合、主人公のお母さんにまつわる、主人公が教えられなかったことを言っているんだな、なるほど。「ラブソングのない」っていうのは、つまり、お母さんと伊笠さんの二人の関係の、恋愛ではない部分であるところの病気にまつわるなにかがあったことを言っているんだな、なるほど。そうするとこの話は、少女が母親とその恋人の二人の間柄を何となく察したうえで、しかし逆張り的に大人にならないことを決意する、みたいな話なんだな、なるほど。最初読んだ時全然分からなかったのだけど。これはけっこうちゃんとしたストーリーを持った話のようだな。…なんてことを思う。
・Theme talk
コメント:けして意地悪で書くわけではないのだが、「正直、責任も取りたくないです!」ということを一読者として実直に受け取るとすると、では、この作品を読んだ私はあなたのこの作品について感じたことを何も言わないほうがよいのだな、ということを思う。実際上のコメントでは内容について私が感じたことは書いていない。しかし、そのような私の判断は果たして広木素数さんにとってよいことだったのだろうか、ということを考えている。

 

・コラム/私は盗みたい:小林煌
コメント:「(様々な”習慣”は)本来は弟子入りした場合に聞けるような、先生方の企業秘密だ」とある。たしかにそうなのだが、しかし彼ら講師陣はそれを「企業秘密」だと思って生徒に伝えているのだろうかと疑問。秘密のように見えるが、実際には全く秘密になんかしていないのではとも。批判ではなく、単に外野の感想として。

 

・先輩に告白したいJCの話:つまようじ
コメント:だれかこの世界にツッコミを入れてくれ。恋下イコと皇子先輩というザ・マンガみたいな頭の悪いネーミング、さすがつまようじ先生だ。(一応いうとめっちゃ褒めてます!)
・Theme talk
コメント:「つらいときは、立ち止まってまたこれを読み返せばいいじゃない!!」という一文を読んで、この人に心をわしづかみにされた読者は僕だけじゃないはず。つらいときはこの本を開いてみようかな。

 

・風鈴のひと: こぐまあや
コメント:大学一年生の主人公が最後「大人の恋は、…ガキの俺にはまだよくわからない」って言っているのを見て、ふっと、自分の18歳くらいのころと今とで(だいたい10年経っているのだが)なにか自分のマインドが変化しているのかなと考えた。たぶん、恋愛を含めた人付き合いに対してあまり他人に期待しなくなったんだと思う。そう考えてみてから読むと、この詩織さんからもどこか冷めた雰囲気を感じるような気がする。ただ一方で、期待しないことは決して人を好きになることをやめることとはイコールではないんだぜ、だからいいんだよ、とも思っているわけだけど。もしかすると僕は詩織さんのマインドにシンパシーを持っているのかな。
・Theme talk
コメント:こぐまあやさんのマンガを読んでいると、特にこのマンガはそうだけど、女性のキャラクターが<表面的な体温>と<内面的な体温>を持っていることを感じる瞬間がある。例えばこの作品だと「最低な男でしょう」といっているときの詩織は、予想を裏切る形で冷静な判断をしており、<表面的な体温>が冷めた様子として描かれている。だがその後、彼女が次に「罪悪感抱けばいいのにって」と言いおわるところでは、最初の体温が冷めたはずなのに、その下には新たな体温が出てきているように感じられる。この場合、本来なら、<表面的な体温>が冷めてしまった後、体温を持たない冷え切った人格がでてくることを読み手は予想するのだが、実際にはそうならず、それをさらに裏切る形で<内面的な体温>が出てくる。その二重の裏切りがあることがこの作品の、牽いてはこぐまあやさんの作品がもっている人物の(特に女性のキャラの)もつ、快感の理由だと考えている。…「良ければ、感想下さい!!」とのことなので、以上、感想でした。

 

・コラム/聴覚は音を求める:佐藤史子
コメント:短くとてもいいエッセイだった。奪われることでむしろ発露する自身の欲望を感じたとき、人は自分の誇りのようなものを内に感じるということかもしれないと思った。

 

・箸休めマンガ 読んでも聴こえない: 畑こんにゃく
コメント:どうしてこういうキャラクターが思い浮かぶんだろう。この作品は特に、どっからアイデアを持ってきたのか本当に不思議でならない。

 

・くゆる:くたくた
コメント:読んでいて思ったけれど、自分が死んだなんらかの形について、人は罪悪感を覚えなくていいんじゃないですかね。
・Theme talk
コメント:騒音問題から、自爆テロの話へと…すごい発想だ。

 

・コラム/マンガを描くときの音 ハミ山クリニカ
コメント:めちゃくちゃうまい文章だなー。読んでいると心の調子が良くなるよう。僕もこういう文章が書けるようになりたい。

 

・彼女たちの本音:なないつ
コメント:webで読んだときから、イエローとヤミーナさまの絡みの続きが見たすぎて、悶えている。ヤミーナ様…ヤミーナ様!!
・Theme talk
コメント:「うっせぇわ」を聴きながらネームを描いた、と聞くとこの作品の爽快感にも納得。というか、このマンガを読んだ後にこのあとがきを読んで、初めて、あの曲をそうやってスカッとする、みたいに聞けばいいのかいいのか、とハッとした。

 

・大人の声:kuzikuzira
コメント:張りのある、大人の「声」を聞いて、自分と相手の差をはっきり感じてしまう、っていう部分が好き。相手の微妙なふるまいの変化を知って、もう昔とは違うんだな、って感じてしまうことって実際にあるよね。
・Theme talk
コメント:kuzikuziraさんの直筆の文字がなんかいい。こう、いい意味で力が抜けている感じ。

 

・コラム/ひらめき★漂流教室:よこうただ
コメント:正直、あまりいい文章だとは思わない。頑張れ、うたださん!

 

・メイドインハート!:pote
コメント:いやいや、職務怠慢はダメでしょ、お姉さん。え、そういうマンガじゃない?
・Theme talk
コメント:緊張して心臓がバクバクするときに変な汗が出るようになったのは、いったい何才の時からなんだろうね。この主人公くんはまだそういう体験はしてなさそう。

 

・Now on air:藤原白白
コメント:主人公が一人でラジオを聴いているときに勝手に決断して手紙を出してしまうところが、展開としてちょっと面白くないと思っただけど、とはいえ、よいマンガだった。ところで読んでいて思ったのだけど、このマンガの中で描かれる溜まっている手紙は、おそらくイズに向けたものだと読めるように演出されていると思う。だけどわたしは、実は、この手紙の中には主人公がお母さんに向けて書いていた手紙か、もしくは母親から送られてきていた手紙が何通か混ざっているのではないか、と思ったのだ。そして、その手紙を机にしまっていたことを、おそらく主人公本人は忘れているのではないかとも。
・Theme talk
コメント:なるほど、「読めば、聴こえる。」は藤原さんの発案だったのか。藤原さんの作品について表題に関連した感想を言えば、実のところこの作品は「音」ではなく「声」の問題を扱った作品なのだと思う。主人公にとっての「声」は、ラジオから流れるイズの声と亡くなったお母さんの電話越しの声の記憶との二つがあり、それらが重なって映るようなストーリー。その構図が「聴こえる」ことについての意味づけを示唆しているようで好印象。ただ、表題の「読めば、聴こえる。」がこれが読者の体験としての話だとすると、僕はさして読んで聴こえたとは思わなかったのだけども。

 

・コラム/何が聴こえるか:正三
コメント:2段落目で言われている、「作者の声が聴こえてくることもある。何故自分に響いたのかを考える。」と言われていることはとても重要なことだと思う。その感覚が生じなかったら、作品を読んでなんらかの思考が育つということもないはずなので。

 

・推しコメ!

全体コメント:コーナーについて。サクサクっと読めて楽しかった。ついつい読んじゃう。これ以外にマンガじゃないコーナーがないのが、ストイックだね。

 

レビュー/音無しさんを許さない!!
プレゼンテーター:正三
 コメント:むしろこの作品こそが、「天然でいるようでいてすべてが計算ずく」に作られた作品ですよ。ああ、手のひらで踊らされるぅ。
プレゼンテーター:小林煌
 コメント:にやにや、どきどき、ほっこり!

 

レビュー/モノラルラブ
プレゼンテーター:正三
 コメント:そう、21pの丸めた本の「数学Ⅱ」とか、28pの主人公の部屋に置かれているエレキギターとか、とにかく芸が細かい。
プレゼンテーター:小林煌
 コメント:昔の記憶が「ありありとよみがえ」るように作ってある作品だよね。そんな記憶がなくても蘇っちゃうくらい。そこが面白い。

 

レビュー/シドラミソ
プレゼンテーター:藤原白白
 コメント:まじですごい作品でした。
プレゼンテーター:くたくた
 コメント:畑ワールドという形容が分かる。畑こんにゃくさんの作品を読むたびに、どこからこの発想来たんだろう、って僕も思う。

 

レビュー/ラブソングのないサイドB
プレゼンテーター:清水しの
 コメント:「漫符を使っていない」なんてコメントは、作家ならではのコメントだなあ。
プレゼンテーター:よこうただ
 コメント:なるほど。しかし、それはこの作品単体では判断できないな。

 

レビュー/先輩に告白したいJCの話
プレゼンテーター:pote
 コメント:そんな某淫夢スラング風にいわれても。じゃなくて。「つまようじ流」っていうその独特さを認める呼び方がつまようじさんに合うよね。
プレゼンテーター:天草仁郎
 コメント:「読むと元気が出る、そんな作品を描く作家さんです。」全くその通り。ぼくも元気をもらっています。

 

レビュー/風鈴のひと
プレゼンテーター:なないつ
 コメント:「しょっぺぇ!」っていういい方がわかる!そう!にがあああああい!(ドランクドラゴンの「あまーい」ならぬ)
プレゼンテーター:清水しの
 コメント:「ファムファタール」強そう!ファムッ、ファタアァァァル!!(ごめんなさい)

 

レビュー/くゆる
プレゼンテーター:小林煌
 コメント:音は聞こえすぎているのだけど、キャッチ部分は無感覚的っていう、なんとも言えないバランスの作品でした。
プレゼンテーター:藤原白白
 コメント:「くたくたさんのイメージは『青い炎』」!!なるほど!この解説は的確かもしらん。

 

レビュー/彼女たちの本音
プレゼンテーター:清水しの
 コメント:これ以上ない、的確なレビューだ!
プレゼンテーター:藤原白白
 コメント:わかるなあ、「ぐぬぬ」っていうところがこの場合重要ですよね。

 

レビュー/大人の声
プレゼンテーター:天草仁郎
 コメント:この作品、深夜に酔っぱらって声をかけた後輩の様々な態度にも問題があると思うのは私だけ?
プレゼンテーター:藤原白白
 コメント:そう。くせに、なるのです…!!

 

レビュー/メイドインハート!
プレゼンテーター:よこうただ
 コメント:「主人公の鼓動音のみを聞きわけるメイド耳」っていう表現がシュールで笑った。
プレゼンテーター:清水しの
 コメント:ふむふむ。しかし、清水しのさんの解説のなんと的確なことか。

 

レビュー/Now on air
プレゼンテーター:よこうただ
 コメント:「ラジオを抱え、街へ!」って、言われてみると全くマンガ的な意味はないんだよね。むしろそこがいいんだけど。
プレゼンテーター:正三
 コメント:私の場合、心、洗われたかなあ。

 

・奥付
コメント:文字のフォントがいい。全体的に整っていてきれい。

 

・背表紙
コメント:「あなたには何が聴こえましたか?」と問いがあるのでそれについて。音が聴こえたかはよくわからない(そもそも判断していない)けど、僕は畑こんにゃくさんの「シドラミソ」を読んでいるとき、幻聴の持っている独特の圧迫感みたいなものを感じた。このマンガを読むと、作品の持つ構造(≒リズム)によって読み手の自分に内感が与えられている(=主人公が感じているはずの圧迫感を読み手として受け取る)ことを感じる。「聴こえ」みたいなものがなにか作品読解の上で意味あるテーマになるとしたら、「聴こえ」が作品の中でマンガと分離不可能に結びついていてかつ、それが与えている具体的な意味内容から考えを出発することになるんではないかと思う。抽象的ではなくきわめて具体的な形で働いている地点から出発するほかないというか。そういうことをこの質問を目にすると考えるかな。

 

以上!ほかのチームの感想もぜひよろしく!

 

 

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2021/5/08 一部表記変更