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ひらめき☆マンガ教室 第5期 課題10 ネーム感想 #ひらめきマンガ

全作品の感想書きました。順番は教室の名簿順です。反応いただけたら嬉しいです。大塚

最終更新:2022_12_30_10:45

感想の基準

 毎度、感想の基準が書いてからの後付けになってしまって恐縮ですが、今回はわりとはっきりと「なんでもないことを描く」ことをやっている作品がよかったです。最初は、課題が「共感」がテーマだったこともあり、題材がどうであれ感覚がつかめるように作られているものを評価するように書くつもりだったのですが、実際に感想を書いてみるとありふれた出来事を題材にしているものの中に良いと思うものが多かった印象でした。
 個人的には読者として「共感」するという感じ方をわざわざ表現するのが恥ずかしいところがあって普段は避ける上に、今回の感想でもあまりそのことは書かなかったのですが、マンガで何か共感を得るというのは、自分の場合はそのキャラクターの味方になってあげたいと思うこととセットのように思います。今回の課題の「身に覚えがあるもの」をうまく使うというお題は、読者がそのキャラクター(もしかしたらそれ以前には無関心だったり反感を持っていたりするかもしれないキャラクター)に対して優しくなるとか応援したくなるとか、今風に言えば推しになるとか、そのあたりの行動と関係しているのかもしれない、なんて考えます。

 

 

全16作品感想

nonakaさん「リタリーマン」

リタリーマン | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 この作家の方初のロボットマンガとのことだが、肝心のロボットのインパクトが弱かった。2,3pでは静止した姿、11pから14p付近では動く姿が描かれているが、特に動きの場面ではもっとバーンと見開きを使うような演出がこの手のマンガでは必要になるのではないか。青少年の心の機微を描くこともロボットものとして重要だとは思うが、まずはロボットの方に興味が向くように作らないと、心の機微もうまく機能しないように思える。

 

あさかたこれ太郎さん「狂気の画家 ジェラール・ド・ローリエ

狂気の画家 ジェラール・ド・ローリエ | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 お話しの美し気な雰囲気が絵柄とマッチしていてそこはよいと思ったが、例えば9pで主人公が「彼女を正気にもどそう」と決心する部分では、なんで主人公がここで決心するに至っているのかよくわからない。全体的に主人公がヒロインに惹かれる理由の説明が足りないと思った。ストーリーテラーとしての主人公と、ヒロインに惹かれて行動を変化させる主人公(具体的には9p「正気に戻そう」や13p「尽力した」の二つ)とがうまくつながっていないような感じだ。
 ただこの作品のつくりからは、作者本人もなにかうまくいっていない自覚があって苦労して作っているように感じる。これまでの教室の作品よりも、制作の関心が読み手に向いている感じがあり、その意味では好感を持った作品だった。

 

はねむらさん「TICKET or DIE」

TICKET or DIE | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 これは全然面白くないと思う。せっかく2pでリアルイベントに向かう話だと前振りがあるのに最後はチケットの話に関心が逸れるのでつまらない。せっかくならリアルイベントで対面するまで描き切ったらよいのに、などと勝手には思う。
 ただこの作品から話の企画をくみ取るなら、ハードルの高いイベントに参加するまでの手続き上の緊張や動揺みたいな心の動きを描きたかったのかなとは思う。個人的には、このマンガで選ばれている出来事が地味すぎてそれがうまく描けるイメージはあまりわかなかった。(逆に言えばそのイメージが掴める作品にさえなっていれば企画として通っているのだと思う。)

 

葉野 赤さん「熊」

熊 | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 最後にエミが作中で本当に熊に殺されたらしいことが示されるが、このエクスキューズはもう少し先にあってほしかった。単に夢の中でそういう悪い妄想をしたという話かと思ったので、ちょっとびっくりした。読んでいる方も意外と作中の登場人物の生き死にを気にしていたりするので、今回はそこが一番もったいない部分かと思う。
 他には、夢に入る部分がどこかはもっとわかりやすくした方がいいと思う。例えば違和感のあるコマを用意するとか、スイッチになる描写を用意するなどでもっと工夫ができるはず。(具体的には夢の中で電話がかかってくるところを1p全部使って表現するくらいでもよさそうだし、会話が夢であるとはっきりする「ミサキが一番…/大切だから…」のコマをもっと大きくしてもよいと思う)
 ただ、話の企画はこの作品もよいと思うのでぜひぜひ頑張って描いてほしい。勝手な感想だが、これだけ恐ろしげな話が描けるなら、民話をベースにしたホラーなどが合いそうだなと思う。

 

御園ほけさん「テレビと父」

テレビと父 | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 このお話は何でもないことを描いていてよかった。夜中に毛布をかぶせてテレビをコソコソ見るっていうやり方がいかにもありそうでいい。ただ、最後に過去から現代に話がすすむところは父親の話の続きが見れなくて不満。この場合、わざわざ未来に話を進めなくてもよいのでは、と思った。

 

かわじろうさん「キツネとジャンボターキー」

キツネとジャンボターキー | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト 

 これはいいなあと率直に思う。ただ11pから終わりに向かう流れはおそらくキツネと主人公とのやりとりを見せたかったのだと思うが、もしかすると少しごちゃついて感じられるかもしれない。特に12pと13pのやりとりは(個人的には面白いと思うのだが)ここまで画面として遊びをいれている理由はよくわからなかった。もしかすると14pの「私は腹一杯チキンを食べたかっただけだ」というセリフに至る流れをちゃんと用意したかったということなのかな。

 

山中美容室さん「そのカバかむよ」

そのカバかむよ | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト 

 この話はネームの描き方の加減でどこでどのキャラが動いているのかわからないところも多いが、でも面白そうな話だと思った。かわったキャラクターのとの出会いのワンシーンをただ描いているだけといえばそうだが、普通にワクワクしながら読めると思う。また、スカイツリーや風呂、(ちょっとエッチな感じの)チャイナ服など、オブジェクトがはっきりしているので想像しやすい。ぜひ完成したものを読んでみたい。

 

泉ころろんさん「今日は寝たくない」

今日は寝たくない | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 これは、なにがなんだか全然わからない話だった。こういう不思議な雰囲気の話の場合、中身がわからなくともめくりの気持ちよさで面白く読めたりすることもあるが、この話の場合はそこからもちょっと遠く思える。特に読んでいて困ったのは、途中まで主人公がにーちゃんだったのが最後弟に主観が移ってしまったところだった。ただ、夢の内容がそのまま描かれているところはアイデア的にはおもしろいと思うので、この夢をにーちゃんが見たことを物語上どう受け取ればよいかが伝わってこれば面白くなると思う。

 

森紗はるきさん「僕は遭遇した」

僕は遭遇した | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 今までこの作者の方の話はエロに振り切らない話が多かったが、この話の場合はエロを使った話で好感を持った。ただせっかく使うならもっとエロを使って気を持たせた方がよいのではないかと思う。例えば4pに「脱いだらでかいな…」とあるがここは「おっぱい」とかはっきり言葉が入っていると期待度が上がるはず。また6pの「手をつなぐこと~」のセリフはこんなに早く種明かしせずもっと後回しにして次のめくりの後に載せればそれだけでも話が膨らむのではないか。ともあれ、個人的には森紗さんからエロに振った話が出てきてうれしい。頑張って描いてほしい。

 

qjinさん「リトルフィンガーバスターズ」

リトルフィンガーバスターズ | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 キャラクターの表情のつけ方などはよく頑張っていると思う。タンスがたくさん並んでいる絵など、演出的にも面白く読めた。ただそれでもまだ、やろうとしていることに対して十分描け切れていない印象を受けるネームだ。例えばこの襲ってくるゴブリンが何者なのかはもうちょっと知りたい。ほかにもオチは個人的にはあまり脈絡がないように感じる。ギャグマンガの場合、演出がメインになるはずだが一方でストーリーも最低限しっかりしてないと意味が成立しなくなってしまうので難しい。

 

滑川王手さん「さしずめあかなめ」

さしずめあかなめ | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 これは面白い。個人的には最後にフラれるのが「つら…」となったが、ここまで丁寧に描いていると全くストレスにならない。それと女の子が終始可愛い。最後の風呂のシーンの女の子もエロくて、そのことが主人公の仕事に明るさを生んでいていい。これはぜひ完成したものが読みたい。

 

いとしろたかやさん「私のことゼッタイ好きじゃん」

私のことゼッタイ好きじゃん | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 このお話は惜しいと思った。個人的にタイトルになっている「私のことゼッタイ好きじゃん」という部分がとても良かった。が、前半の主人公が好きなんだと思い込む9p付近までの展開と、10p以降の相手の男の子も実は「中学生の頃は根暗」だったところから始まる二人の恋愛の話の展開とがうまくかみ合っていないように感じたところが残念だった。2p、5p、7pと続く主人公が期待して外す演出が、男の子が本当に好きかどうかを読者に疑わせるフェイズだと思うが、そのことに対する回答がもっと明確に用意されていればと思う。
 ところでこのお話は実際のアイデアとしてはフリの方とオチの方のどちらが元のアイデアだったのだろう。なんとなく、最初に出てきたアイデアを信頼するはずのところが途中で出てきたほかのアイデアに流れて最初のアイデアが負けたのではないかと思える。『私のことゼッタイ好きじゃん』、とてもいいフレーズだと思うので、ぜひ自信をもって推していってほしい。

 

谷なすびさん「白パンツの彼女」

白パンツの彼女 | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 これはよかった。こういう、女がいきなり顔の上に乗ってくるようなコマが出現する突拍子もないマンガがよいと思う。気になったところを言えば、最後の「あれから彼女とは一度も会えていない」は現実のことか夢のことかを作品がうやむやにしているように思えた(そのつもりはないのだとは思うが)。リズム的には8pの「なにか夢を…思い出せなかった」が弛緩するのセリフなので、そちらをそのままオチに使ってもそん色ないのではないか。あと主人公の顔のアップが多いことは気になる。こういう作品は好きなのでぜひ完成したものを頑張って読ませてほしい。

 

たにかわ つかささん「決めらんない。」

決めらんない。 | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 このマンガは1ページ当たりのセリフ量が多いと思ったが、そこに目をつぶれば十分描けていると思う。この路線の作品がだんだん形になってきていると思う。一方で主人公が女性でその主人公が自分の性格について悩む内容なら、女性の側からのリアリティ(どんな出来事に何を感じるキャラクターなのか)がなにか一つ中心に描かれるとよいのかなと思う。内容自体は男性が想像するものでよいと思うので。
 また普通に内容の感想を書くと、個人的には、二人の関係性が一方が一方を一方的に助けるような関係になっていてちょっと難しい。特に13pの「おわび。」の部分は、こういうもったいつけた挙句最後まで自分の優位を崩そうとしない、みたいなことを自分がされたらこの人とは別れたいと思うだろうなと思った(わたしは男だが)。

 

つりばし わたるさん「明け方マンガトリップ」

明け方マンガトリップ | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 これはうまくお話しになっていないと思う。出来事しか描かれていないというか。例えば、場面が変わりつづけてオチになってすらも同じことをずっと考えているとか、一週間そのことを受け入れようと必死に頑張ったら次の週でキャラが復活して再度唖然とするとか。なにか場面や状況を動かせば話ができてくるのかなと思うのだが。

 

晃てるおさん「そんなに嫌いじゃない」

そんなに嫌いじゃない | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 このネームは短い内容だがこれはこれで成立していると思った。このマンガで言うところの岡野先生のような人は現実にもいる気がする。個人的には、心の中にしまっているあるタイプのキャラクターの人のことをたまに手にとって考え、なにかを確かめてまた心にしまう、みたいなことを自分が度々していたことを思い起こさせるような内容だった。

 

全体の感想

 実は今回の課題作品は、最初に全体をざっと読んだときは「あれ、今までうまく行ってた人があまりうまくいかなくなったな」と思いました。また反対に、他の課題についてはそうでもないのに今回の課題については生き生きしている人もいる、とも思いました。
 なんでそうなっているのかなと考えたのですが、まず、どの課題もピンとくる人とこない人がいてそこで差が出る部分はあると思います。ただ今回の課題についてもう少し考えると、「共感」あるいは「身に覚えがあるもの」を使う上で、出来事を考えてさらにプラスαで「共感」を感じさせる演出を作らなくちゃいけない、と考えた人と、逆に「共感」のための感覚の部分にさえ描くことを絞れば行ける、と思った人とで課題の印象が違ったのではないか、と思います。前者のやり方は着実なように見えて実際にはすごく遠回りで、後者のやり方が楽だと思います。その制作の方向付けを課題文から読み取れた人が今回の課題については楽に作れた分、よいものになったのかなと思います。
 それと、とはいえ一つ一つ作品を読んでみるとまた印象も違って、それぞれの方がそれぞれに頑張っているなと思いました。
 皆さんマンガがうまくなってきている、ということは言っておいた方がいいと思うのではっきり書いておきます。具体的には、課題10と教室が終わりに近づいて疲れがあるはずにも関わらずちゃんと提出している(数が多い)ことと、一つ一つの作品が、だんだんなにを狙って描いているのかがわかるようになってきていることです。感想を書いている自分が同じ作家さんのものをずっと読んで理解度が上がっていることはあるはずですが、それを差し引いても、例えばアピール文を読んで理解が深まる機会は以前に比べてはっきりと増えていて、そのことからも自作の狙いが自覚的になってきていることを感じています。

 残る課題もこの課題の完成稿と最終課題だけです。本当にどの方の作品も楽しみにしているので、頑張ってください。作品を描いている側としてはもちろん、なんでもいいから作ればいい、というものではないと思いますが、しかし、物がないとそもそも我々は何も語れないので。応援しています。

 

更新履歴

2022/12/18 4作品感想追加
2022/12/22 5作品感想追加
2022/12/30 7作品感想、感想の基準、全体の感想追加