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主にひらめき☆マンガ教室の感想用。メッセージ等はおたよりフォームへいただければ、配信でお返事します。

大塚式☆ベスト25 ひらめき☆マンガ 教室第6期 文章版

放送リンク
大塚式☆ベスト25ひらめき☆マンガ教室第6期

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大塚式☆ベスト100ひらめき☆マンガ教室第5期

youtube.com第5期ベストの文字版

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あいさつ

 非ひら☆マン生(重要)でひらめき☆マンガ教室感想の大塚です。ひら☆マン第5期でもベスト100といって放送しましたが、今年第6期も個人的ベスト25を考えましたのでお話します。
 最初に去年の反省。第5期のときはがんばったけど、がんばって作りすぎて疲れた!ベスト100は大変だった!なので、その反省で今年は縮小版。
 というか、来週3月31日(日)(※放送は3月27日に行われた)にはもう第7期のマンガが出てくるのです!!!!!!もうちょい時間があればもっと説明したい作品はたくさんあったんだけど、時間がない!!!

 というわけで始める前に注意事項。このベスト企画は並べ方とかチョイスの仕方そのものが結構重要。「あの作品が入ってない」とか「この作品はこの順位じゃないだろ」とか、思う人がいると思う。でもランキングや順位の数字はあまり重要ではなくて、何がなぜ語られているかということが大事。
 イメージとしては「大塚が友達にひら☆マン6期のマンガをおすすめするならどう説明するか」というイメージ。たとえばABC3つのマンガを紹介するとして、「AもBもCもおもしろいよ」というフラットな説明はありえない。そこではきっと「個人的にはBが好きだけど、でも客観的にはAが面白いかな。君はCが好きかもしれない。」など、なにかそれぞれに説明が加わる。そうやって並び方も決まっていく。そうでないと”これを紹介したい”という気持ちに整理がつかない。そういう事情から、並べ方自体が一まとまりの説明になっている。
 なので
・順位は過度に気にしない
・語られている理由が大事
・友達に伝えているイメージ
このあたりをよろしく。
 それと、重要なこととして紹介されているマンガを読んでね、ということ。この企画はそれぞれのマンガを読んでもらうためにやっているようなところもあるので。

 

大塚から見えたひらめき☆マンガ教室第6期の総括

 第6期は完成稿をちゃんと提出する人がめちゃくちゃ多かった。それがたぶん一番重要なこと。実際の数字を見ると以下のとおり。

第6期 総作品数:383点 ネーム:210点 完成稿:173点
(第5期 総作品数:298点 ネーム:187点 完成稿:111点)

 去年と比較しても今年は増えていることがわかるし、絶対数を見ても(実際には完成稿だけの課題もあったのだけど)数字的に8割くらいは完成稿だった計算になる。これって実はすごいこと。
 マンガは完成させないといけない。また、完成させられるように工夫しないと完成させられない。それらの理屈を理解して忠実にやっている人が多かったということ。
 また、感想を送る側からしても、ネームの感想を送ったのに完成稿がないと「せっかく一生懸命考えたんだけどな」と残念な気持ちになる。今年はそういうことが少なかった。なので、読者としては作者や作品に信頼が持てた。推測だけど、ひょっとしたら、読者に気持ちを傾けることができる作者の人が多かった、ということなのかもしれない。

 一方、作品作りに関しては、真面目だけど頑固なところがある人が多かった印象。どっちにもいいところと下手なところがあるように見えた。

●真面目なところ・・・講師や読者から指摘されたことをかなり気にして描いている人が多い。結果、いい修正もあるけど不必要そうな修正もちらほら。読者的には悪い気はしないがもう少し自信は持ってもよいような。

●頑固なところ…一貫したテーマに粘り強く取り組んでいる人が多い。最後に急に変なこととかする人がほとんどいなくて見ている分には平和だった。反面、新しいテーマに挑戦した人は少なめ。

 個人的にはもう少しひねったアイデアを繰り出してくる人がいるとうれしかったかなと思う。でも、ブレないところがあって作品作りから人となりが感じられる安心できる作家さんが多くてそこはよかった。

 あと、今年の大きな出来事はなんといっても「ひらめき☆マンガ+」の登場が革新的。読者と生徒さんとの距離になにか変化がおきていると思う。ひら☆マン+上でのコミュニケーションが見られることで、その作家さんがどういう考えを持っているのか判明するケースも少なくない。
 なのだけど、実はマンガの感想は、今年はいまいち盛り上がらなかった。「ひらめき☆マンガ+」が出来たことで、むしろそちらに勢いが分散・吸収された感じがある。感想については、もう少し目立って一年間続ける人がいると良かったのかもね!(※大塚に近い話題なのでよくはわからないけども!!)
 総括は以上。では本編へどうぞ。

 

本編

第25位 最終課題 明青りんごさん「聖夜の女」

紹介:クリスマスに恋人にフられた男女が一夜をともに過ごす話。書き込みの充実がいい。
リンク:

hirameki.genron.co.jp

説明:
 作者の明青りんごさんはこの教室に今年入って初めてマンガを描いた人。初期の作品と見比べるとその成長のすごさに驚く。明青りんごさんご本人もたしか「ひらめき☆マンガ教室の力を自分が証明しないと、と思っていた」ということをどこかでおっしゃっている。実際、そのような教室の力を感じさせる作品。
 みなもこの機会に初期の作品と見比べて驚くように。明青りんごさんのがんばりの結果なのは間違いないけど、一人の力だけではなく、教室の力によってここまで来られた、ということが大事。

 

第24位 合同誌 ねりけしさん「チャーミーとしゃーあくのBADな日常」

紹介:Cチーム合同誌の合間合間に挿入されていたねりけしさんのマンガ。毎回かわいそうな目に合うしゃーあくと、それをちゃっかり利用するチャーミーのコンビが癖になる。
リンク:
Cチームツイッターアカウントの宣伝マンガより

第6期Cチーム本販売ページ

genron.co.jp


説明:
 合同誌の中で読めることがうれしかったマンガの一つ。本の中でそれぞれの話が散らばっていて読めるたびにうれしい。それが本にとってよいアクセントになっている。個人的にあまり今までのひら☆マン合同誌の中で見られなかったマンガの面白さを感じる。

 

第23位 赤い氷さんのヘンテコキャラ100日チャレンジ

紹介:制作生の赤い氷さんが11月某日から始めたイラストチャレンジ。キャラに世界観があっていい。2月某日に無事チャレンジ達成。軽いテンションの宣言ツイートから本当に100日連続でイラストが出来てしまう。実際、見てみるとかなりいい感じのイラスト。
リンク:
赤い氷さんツイッター 

twitter.com


チャレンジ最初の一枚 

説明:
 赤い氷さんはマンガの世界観もいいけど、こっちのほうが無理がなくていい感じだな、と思ったのでランクイン。実際、ご紹介したいなと思ったマンガもあったのだけども、やっぱりこっちがいいと思った。

 

第22位 新サイト「ひらめき☆マンガ+」誕生

紹介:今までにも課題マンガを投稿するサイトはあったのだが、それが「ひらめき☆マンガ+」として7月にリニューアル。色々すごいサイト。
リンク:

hirameki.genron.co.jp

説明:
 このサイトで受講生は
・本格的な仕上がりでマンガを投稿できる
・ブログ投稿が出来る
・記事にコメントができる

ようになっている。つまりマンガの投稿を古いインターネット的なコミュニケーションの中で出来るサイト。不特定多数の人間に読まれる前提のつくりになっていて、これはマンガの「知らない人に読まれ伝播する」性質にとてもマッチしている。
 ちなみに、課題マンガ以外の投稿は多いわけではないが、全くないわけでもなく、ぼちぼちに収まった様子。うまい使い方がこれから見つかっていくといいが、今後どうなるのかが気になるところ。
 それと、ひら☆マン+、スマホからだとトップ画面がやや見づらいと思うのは大塚だけなのだろうか。(タダで見てるのに欲張りすぎだとは思うけども。)左上のメニューバーの存在を知らないだけでした。気づいたらめっちゃ見やすくなりました。

 

第21位 山岡兄弟さんのAI作画を使ったマンガ群

紹介:山岡兄弟さんは第6期すべての課題マンガをAI作画を使って提出。上はその課題作の一つ「はじめてのSEX」のネーム。(完成稿ではなくネーム版が面白い。)
リンク:
山岡兄弟さんのページ 

hirameki.genron.co.jp山岡兄弟さんのnote(娘さんのとエピソードはa23から)

note.com最終講評会の山岡兄弟さん部分(4:34:10ごろから)

www.youtube.com

説明:
 山岡兄弟さんのAI作画を使ったマンガは今年のひら☆マンのエポックな出来事の一つ。個人的には、山岡兄弟さんのネーム力が上がっていくにつれ、むしろAI作画の読みづらさや読み取りづらさが浮き彫りになっていくように映った。
 AI作画を使ったマンガについての考え方は難しいようにも思うけど、基本的にAI作画を前提で読ませる形になってしまう以上、ジャンル「AI作画」として考えればそう複雑ではないかなと思う。現時点では。
 山岡兄弟さんの作ったお話としてはnoteにある娘とのエピソードが一番心に残る。イラストを描く子供がAIイラストにショックを受ける、そのことについて親がどう説明を持つのか、という内容。作者の意外な一面が見られるようでうれしい。
 ちなみに、最終講評会での質疑応答部分で山岡兄弟さんのAI作画の工夫の説明がされている。キャラを維持する工夫や、構図を出力させるための方法などの話が面白い。

 

第20位 課題3 桐山さん「そこにAIはあるんか」

紹介:AIイラストの登場に自身の作家としてのアイデンティティの危機を感じる主人公が、自分のファンと出会うことで作家として回復していくお話。
リンク:

hirameki.genron.co.jp課題2「君とセックスがしたい」

hirameki.genron.co.jp

解説:
 性的な回復とイラストレーターとしての自信の回復、という二つの意味が重なっているところが気持ちいい。また、オチがコミカルで抜け感が高いところも構成力の高さを感じる。ただ、完成していないことが残念。
 余談だが、この作品の冒頭のように、男性がAIイラストで興奮できるのか?という点は気になる点。大塚は興奮したことがほぼない。思うに「きれいなもの」ではなく「濁ったもの(不透明なもの)」を相手にしたとき人は興奮するのではなかろうか。
 これって実は社会的・政治的な話に深く関係しているように思える。
 人が「不透明なもの」に興奮するなら、「透明性」や「一元性」を是とする価値観って、実は人の快感の仕組みと真っ向から対立していることになる。まったくきれいで次の行動がわかりきっているものに人はほとんどドキドキできないのでは?政治はそれがいいのかもしれない。でも、社会がそうなったらとドキドキできる機会が減ってしまうけど、それは皆が望んでいることなんだろうか。
 作者の桐山さんは、この作品以外にも社会的な出来事を織り交ぜた作品を複数提出していて、今期の中では個人的に目立って見えた作家さんの一人だった。(「きれいなもの」と「気持ち悪いもの」の対比も実は課題2「君とセックスがしたい」に出てきたりする。)マンガとしてのくだらなさと社会への切り取り方が両方ある作品の前ではいろいろな考えが触発される。こういう作風の書き手がいることはありがたいな、と思う。

 

第19位 課題7,合同誌 中山懇さん 「バースデイも別れ話で。」

紹介:たびたび別れ話を迫ってくる彼女との関係で悩む主人公が、彼女の意外な提案を受け入れつつ、誕生日プレゼントに一風変わったあるものを用意する話。
リンク:

hirameki.genron.co.jp

解説:
 彼女との同妻生活のディティールが高さに充実感を感じる。オチではまさかのドッペルゲンガーが登場。マンガならではの変な想像力がうまく乗っていることを感じる。
 作者の中山さんのマンガは絵がきれい。しかし個人的にはややピンと来なかったマンガもあった。その中「このお話なら自分でもわかる…かも!」と一番思えた作品。この世界観がどう展開されるかをもっと読んでみたい。

 

第18位 合同誌 大須賀健 さん「発汗宇宙人と不良人間」

紹介:恋をするために地球へやってきた汗かきな少女と、家庭で恋愛を禁止されてきた男の子が出会って初デートに行くお話。
リンク:
Cチーム合同誌ためし読みページ https://contectures.sakura.ne.jp/hiramekimanga/2023_C/index.html

解説:
 女の子の汗で辺り一体が海のようになる、という展開が意味不明で面白い。なんだか祭りを見ているよう。個人的にこのグルーブ感はひら☆マンの中でもぬきんでていると思った。(そして商業ではこういう伸び伸びした展開はなかなか見られない。)もしかしたら今期のマンガの中でトップ3くらいに好きな展開かも。

 

第17位 最終課題 ぼんち。さん「めるとDT(ダウンタイム)」

紹介:元カノが忘れられない主人公が、グイグイ来る会社の後輩の女子のアタックに葛藤するお話。後輩女子が実は整形した元カノだった、ということが終わりで判明する。
リンク:

hirameki.genron.co.j説明:
 グイグイくる女が実は整形した元カノだった(そのことを主人公は知らない)、という設定が面白い。それだけで何本かお話が作れそう。企画の面白さってあるんだ、と思わされた作品。
 まだこの設定の重要な部分がこのマンガでは描かれていないような気がするので、そこがさらに知りたい。でも、十二分にポテンシャルを感じる内容なので紹介した。

第16位 最終課題 ヤギワタルさん「警察不在の街」

紹介:元警官の主人公が、元同僚の警官が起業した警備会社の悪事に巻き込まれるお話。
リンク:

hirameki.genron.co.jp

解説:
 普通に面白い作品。これまでのヤギワタルさんの作品を読んでいると複数のテーマがあるようでどちらが大事なのかがうまく読み取れない作品も多かった。この作品ではより話が絞られていて、本当はこういうスッキリしたドラマが見せたかったんだな、と思った作品。
 個人的には、イヤな人たちがハッキリと出てくるのがいい作品だと思うけれど、「どうしてこんなにイヤなことばかり・・・フィクションでくらい救いがあってくれ!」とも。でもスッキリした作品なので紹介。

第15位 最終課題 たにかわつかささん「カイジューのちいちゃん」

紹介:ヒーローをしている主人公とカイジューになって行ってしまう彼女のちいちゃんのケンカを描いたお話。カイジューになってしまったちいちゃんを見て主人公はいままでの自分のふるまいを謝る。

hirameki.genron.co.jp

説明:
 作者のたにかわさんがひら☆マンでのいろんな紆余曲折を経て、さまざまな要素を回収している作品。内容的にも濃くて考えさせるものがある。
 たにかわさんは第5期のころからひら☆マンに通っている。変遷はざっくりと次のとおり。
第5期課題1→ヒーローもの
第5期途中→日常もの
第5期最終課題→彼女もの
第6期課途中→狂人・悪人・フェチを描く
 これらを経て最終的に”第6期最終課題→ヒーロー×日常×彼女×フェチ”とすべての要素を回収した内容を描くに至っている。だからこの作品は熱い。
 個人的には、内容には同意しづらい部分がある。でも、テーマの捕らえ方や描く角度はなにか鋭さがあり、無視はできないと感じる作品。
 最終講評会でのさやわかさんの発言によれば、この作品はかつてセカイ系といわれていたジャンルの作品で、たにかわさんの生きてきた時代の経験が、その人生がかつての問題を乗り越えるということが起きている、とのこと。大塚はまだあまりよくわかっていないので、今後折に触れて考えたい。問いを与えてくれる作品。

 

第14位 最終課題 ひむかさん「プリンセスを探して」

紹介:女性としての恋愛観を友人から押し付けられることに悩む主人公が、自分の態度を通じて、自分が目指す女性としての生き方を友人に伝えようとするお話。
リンク:

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説明:
 ”語りではなく態度で友人になにごとかを示す”という物語の結論に納得した作品。ありきたりといえばそうかもしれないけど、意外とこういう説得的な結論を描けている作品は少ない。
 ひむかさんのようなきれいな絵でこういうまじめな内容がしっかり描けていれば十分面白い、と思った。まだマンガとしては読みづらい部分があると思うし、この手のマンガはそこの丁寧さが重要だとは思うけれど。


第13位 投稿コースの講評

紹介:月に一度マンガの講評を依頼できる投稿コースの講評。講評はだれでも読むことができる。
リンク:
”投稿コース”のサイト内検索結果

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解説:
 ひら☆マンやマンガに興味があってまだ読んだことがない人は損している!!!!!! 単に読み物として面白いので、いますぐアクセスするべき(本当に)。
 この講評には「的確になにかが指摘されること」の快感がある。「マンガの講評」と聞くと構える人もいそうだけど、人の話の面白さって快感があるとか、そういう卑近な感覚で楽しむといいんじゃないかな?

 

第12位 投稿コース イドガネさん(井土金浩太さん)エッセイマンガ「プータロー日記」シリーズ

紹介:亡くなった母親の遺産を趣味の時間を買うことに当てることにしたプータローの主人公が、母親の最期の「何も後悔はないわ」という言葉の意味を探していくお話。作者のイドガネさんの体験をもとにするエッセイマンガ。
リンク:
プータロー日記 第1話

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イドカネさんのページ

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解説:
 母親との急な死別というシリアスなテーマと、遺産を使って趣味に興じるという気の抜けたストーリーの相性がいい。ストレスのない作風でとても読みやすい。
 また、ひら☆マン+で連載のような形式をとりつつ講評にも提出している作品で、今年新しくできた投稿コースという窓口を一番うまく使っているように思えた投稿。

 

第11位 最終課題 大須健さん「痴話喧嘩無敗伝説」

紹介:彼女との口ケンカに勝ち、そしてそれゆえに幾度も別れてきた男、正(ただし)の悲しい勝利の記録。いろんな彼女との口ゲンカ(痴話喧嘩)がオムニバス方式で展開される。
リンク:

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解説:
 読み始めはこれって面白くなるのかなと思うが、読んでいるうち、それぞれの話がちゃんと練られているので「これは面白いぞ」と認めざるを得なくなるマンガ。
 作画も力が入っていて、内容だけでなく物量で説得させられるようなところがある。ページ数にいたっては50ページもあってすごい。やれることを全部やっている感じがあり、「気合が入っている」とはこういうことかと感じる。

 

第10位 課題1 藍銅 ツバメ(らんどうつばめ)さん「推しの声の怪」

紹介:推しの声優との仕事を終えた小説家の主人公の下に推しと同じ声を持った怪がやって来るお話。主人公は去っていく怪のあとに推しの声へのむなしさを抱く。
リンク:

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解説:
 物語としてのまとまりがめちゃくちゃいい作品。オチに向けてお話全体が集約されている。思わず、この物語の構造を解説したくなってしまったので以下解説。

☆プチ考察
オチの「それはたしかに本物でしかしどこか虚しい」のエモさを構成しているっぽい3要素

●<推し>の声を模した<怪>がフィクションとして登場し最終的には物語から退場し、その前後で主人公の感じ方が変化する、という形式が採用されている。

●<怪>が退場したあとに主人公がなにかを感じるオチへのフリとして、<怪>が登場する前に主人公が<推し>に感じていること(1p「推している声優の生配信にウキウキで出た」)が明確に説明されている。

●<怪(フィクション)>による読み物としての盛り上がり(7pでそれまでの不穏な経緯の結果<怪>が<推し>に襲い掛かろうとする)が用意されており、<怪(フィクション)>がこのお話の面白さにとって必要な理由がわかるようになっている。(これがないとお話の起伏がない単に意識が高いだけのお話になってしまう。)

→まとめると、主人公の変化を促す形式がある・オチへのフリがある・このフィクション(怪)に固有の面白さがある、を満たしているので、最後のオチのセリフがエモい感じに映る…のではないかな?

 解説終わり。
 作者の藍銅さんは、その後こういった物語性の強さをむしろ減らしているので、ことさら代表作のように強調するのはなにか違うかなとは思う。でも、とても感心して読んだ作品の一つだったのでご紹介したかった。

 

第9位 最終課題 くまのぶさん「小食二郎訪問 ~環七一之江店~」

紹介:小食だが二郎ラーメンが好きな主人公が、大盛りのイメージがある二郎を小食の人でも楽しめるように紹介するレポマンガ。
リンク:Cチーム合同誌試し読みページ

https://contectures.sakura.ne.jp/hiramekimanga/2023_C/index.html

 

解説:
 小食×二郎、という企画がどれだけでも作品が作れそうでとおりがいい。加えて、くまのぶさんの読み手にストレスをかけない作風が心地いい。
 読んでいると「二郎って大盛りだけじゃないのか」とか「今度外食に行こうかな」とか、肩の力が抜ける感想が出てくる。緊張がほぐれるマンガで、読み物が肩の力を抜いてくれることのありがたさを感じる。

 

第8位 ヤングジャンプ8号掲載 ぼんち。さん 「シちゃった。」(課題3「シちゃった。」 課題8「シちゃった。改稿」)

紹介:同窓会で気になっていた彼の自宅にうっかりお持ち帰りされた主人公がひたすらドキドキさせられ感情がコントロールできなくなっていくお話。
リンク:

ヤングジャンプでの掲載

t.coひらめき☆マンガ教室での改稿課題作(課題8)

hirameki.genron.co.jpひらめき☆マンガ教室での課題作(課題3)

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解説:
 女の子がドキドキする、というワンアイデアをうまく膨らませている内容。元々は課題3で制作されたマンガだったが、課題8での修正ポイント(女の子がドキっとする絵を一枚ずつ可愛くしている点)がよく、アイデアのノビのよさを感じた作品。
 この内容は下手にやると品がなくなってしまう内容かと思う。似た内容でも、下品にしたり逆に当たり障りのない上品な方向に振りきったり、わりきったやり方も一般的にはとられているように思う。でも、この作品はいずれにもしていないところに作品作りの貪欲なところが見られると思う。
 内容については、個人的にはディティールの細かさで盛り上がるわりに、最終的にはコミカルに終わるところが少し透かされたような感じもする。ポジティブに言い換えて、まだまだここからよくなる感じがする、といったほうがよいだろう。
 週刊ヤングジャンプの読み切りはWebでも読めるので、ぜひ、読んでみよう。ひら☆マンの課題作が外の媒体で読めることも、読む体験としては貴重なこと。

第7位 最終課題 形井中へいさん「志摩先生とうるるちゃん」とその講評

紹介:マンガの専門学校の講師としている志摩先生の学校の体験入学にやってきたうるるちゃんが、もちまえの純真さとやる気によって周りに影響を与えていくお話。ここでは作品だけでなく、最終講評会での作品の掘り下げの様子の紹介も重要。
リンク:

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最終講評会形井中へいさん講評部分(1:55:20ごろ)

www.youtube.com課題1「風間さん」

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解説:
 このマンガは、最終講評会での審査員と作者の形井中さんとのやりとりがいい。形井中さんの語りに”本当はこういうことが描きたかった”という思いを感じた。
 講評でのやりとりを聞くと、つまり、実は形井中さんは課題1で描いた専門学校をやめてしまった女の子のイメージを持っていて、それを「ギャル」の表現でどうにかしてあげられないか、と考えていたらしい。そう思うとこの「うるるちゃん」というキャラクターにこめられた思いがグッと切実に感じられてくる。
 また、パッと読んでもなかなか気がつかないのに、審査員のブルボン小林さんが「『うまいけどなんか足りないんだよね』じゃないんですよ。なにかある。」と作品だけを読んで指摘したことの慧眼さたるや、と驚かされる。
 実はブルボン小林さんはひら☆マン第7期説明会のときに”マンガ家は孤独。仲間がいたりマンガ評があることは大事なんじゃないか(だからひら☆マンは優れている)”という趣旨のことを話している。この作品ではここでいうマンガ評な読み取りを実際にブルボン小林さんはしていて、作家の孤独に触れる手本になるような読解だと思った。
 ただ実際には、このマンガからこのうるるちゃんの切実さがなかなか読み取れないことはもったいない。
 ちなみに、大塚自身はまさかこのギャルにそんな思いがこめられていたとは露知らず「なんだかうるるちゃんは可愛いんだけど、エピソードがもうちょっとほしいなあ」とぼんやり思っていた、ということは魚拓的にお伝えしておく。

 

第6位 最終課題 やながわけんじさん「オタクに優しいギャルの兄ちゃん」

紹介:引きこもりのお兄ちゃんが家に男を連れ込んできたギャルの妹に翻弄されるお話。うっかり妹の部屋に忍び込んだことがバレて、妹にハッキリ「キモい」といわれてしまう。
リンク:

hirameki.genron.co.jp

解説:

 演出のレベルが高く、また内容的にも妹への欲望がすごく変な感じで描かれていることが印象に残る作品。
 ただ、「なんだか語りづらさがある作品だな…」と大塚は思っていたのだが、たぶん、それはこの内容がとても下品だから!!(決して悪い意味ではない!!)だって兄が妹に性的に欲情することがお話のベースになってるんだもん!!!なかなかネットで話せないよ!!!!!!
 兄から妹への性的なまなざしが、異性愛よりも家族愛のほうに重きがある、というところに真の気持ち悪さ(面白さ)がある内容なんじゃないだろうか。しかもこの何考えてるかわからない妹がそれを喜んでいるようなので余計にキモいんじゃないだろうか。(とても褒めているつもり。)
 憶測だけど、この兄妹が共依存関係からどうやって抜け出すのか、というテーマがある内容だと思う。そういう普遍的・社会的なテーマを下品で下らない内容の中で考えよう、という意志が見えるところが個人的には好感を持つポイント。(これがまじめになりすぎるととたんにつまらなくなる。)

 

第5位 課題2 ほりい泉さん「捨て」

紹介:物を異常に捨てる主人公が幼少期に自分を捨てた母親と再会するお話。物を捨てる主人公の異常性が母親への本当の感情に気づかせる。
リンク:

hirameki.genron.co.jp

解説:

 物語性がとても強い作品。主人公が本人にとってかけがえのないなにかに気がつく内容。また、作者のほりい泉さんにとって最初の完成稿だという点も気持ちのよい部分。
 なのだが、ほかの人の感想を見ると「なぜ母親は殺されなかったのか」とか、ひどいと「脚本的に母親は殺されないとおかしいのでは」なんて感想も見かけた。これだけよくできている作品に対してあまりにも残念な反応。
 まず、この作品を読んでみなさんが思うべきことは、「ああ、何でも捨ててきた主人公がなにか捨てられないものがあることに気づけてよかったなあ」と思うこと。つまり、何も大切にできることがなさそうな主人公が、捨てられないという手ごたえによって、自分にとって大切なものの存在に気づくお話なんだ、このお話は。まずは難しく考えず内容をそのまま受け取りましょう。
 そしてそのことを認めた上で「でもどうして、この破滅的な主人公がそんな穏やかなエンディングを迎えられたんだろう、そのことが不思議だ。」と順番に考えましょう。
 思うに、幼少期に母親に捨てられた経験を持つ人間は、少なからず破滅的な性格を持っていておかしくない。この作品を読んで驚くべきことは、その破滅性(物を捨てること)が、自分の母親に対する複雑な感情の受け止め方を教えた、ということそのものなのではないか。
 「どうして母親を殺すことにならなかったのか」という疑問は正直よくわからない。ただ、主人公の破滅的な勢いに歯止めがかかったのはなぜ?という疑問だとすれば、それは、主人公が「本当は自分はこの人に愛されたかっただけだったんだ」と気づいたから、そして、そのときに加害の代わりになる<捨てる>という行為を手段として持ち合わせていたから、とはいえるんじゃないだろうか。
 また、個人的には、最初の作品がこれだけ出来がいいと、その後が大変だったんじゃないだろうか、とも思う作品。だけど、ほりい泉さんは普通のお話をかくだけで十分読み応えのある作品を生み出せる方なんじゃないだろうか。

 

第4位 第93回小学館新人コミック大賞の青年部門で大賞受賞 かわじろうさん「コースロープ」

紹介:田舎から都会に引っ越してきた水泳が得意な主人公が、自然の川とプールとの水泳の違いに戸惑い調子を崩すお話。友達のクサカベの助力が主人公が突破するための発想を与える。第93回小学館新人コミック大賞の青年部門で大賞受賞。
リンク:

shincomi.shogakukan.co.jp

解説:

 ひらめき☆マンガ教室内での作品ではないがとてもいい作品だと思うので紹介。作者のかわじろうさんの絵的な風景と心象風景とが混ざっていくような演出が心地よい。
 後半の水の演出や空の演出に目が行きがちな内容だが、むしろ、途中までの主人公が精神的にダメージを追っていく状況のディティールのきめの細かさが、この作品の工夫がある部分に見える。(ここがないと単に景色のきれいなお話になってしまう。)
 ちなみに、賞に際しての作家の浅野いにおの「多少意図的な『くどさ』や、絵柄の裏に隠されたトゲのようなものがあれば、より奥行きのある作品になるのではないかと感じました。」というコメントがとても優れている。
 たしかにそういわれると、この作品の登場人物の置かれている状況に対して、どうしてこういう状況が選ばれたのかはたぶん何か理由があるように思えるのだが見えづらい。それはここでいうトゲのような部分がわかると見えやすくなる部分なのかも。
 個人的な感想としては、ドラマの部分のつくり込みと景色の絵的なつくりが緻密で、普通に関心して読んでしまった一方、でも、キャラクターがなにか不自由なような気もする、という感想。いい脚本なのだけど、これは脚本のよさなのであってキャラクターのよさ(たとえばキャラを見ていて元気になったりする感じ)とはまた少し違う、というか。さらに「こういう人間をかかねばならない」というなにかを感じられたらうれしいのかな、と思う。

 

第3位 ちばてつや賞ヤング部門第89回優秀新人賞受賞 藤原ハルさん 「犬を送る」


紹介:長年子どものように接してきた犬が亡くなった夫婦の話。死んでしまったペットの残したいたずらが離婚を考えていた二人の考えに変化をもたらす。ひら☆マン第6期課題1のマンガをブラッシュアップした作品。
リンク:

t.co課題1「さいごの散歩」

hirameki.genron.co.jp解説:

 普通にレベルも高くて、内容もいいマンガ。そしていろいろな点で褒めてあげたくなるマンガ。
 作者の藤原さんは、途中の講評では”100点には近いけど、120点ではない”などとも言われていた。その後の作品を読んいて、うまい作品ではなく読み手の心に残る作品を作ろうとこの作者は苦心しているのかもしれない、と一読者的には感じるところがあった。
 その中、この「犬を送る」は課題1の「さいごの散歩」の物語の弱かったところを修正して、さらに感動させるように膨らませた内容。一回出来上がったものをこうやって修正することはとても大変なはず。きっとこの作品は、なにか自分の作品に変化を求めないとこうはならない、という作品で、その作品が実際受賞したり、SNSでバズッたりしていたので、よい出来事として紹介したいと思った。(SNSのバズりは感動している人もいる一方、便乗のほめたがりみたいなヤツも多いとは思ったけど。)
 大塚の感想としては、やっぱり桜の木の見開き部分は感情が動かされると思った。ただ、お話としてはなにかどこかで緊張がほぐれる瞬間があるとうれしいとも思う。たぶん、このわんちゃんの話は実話が部分的に入っていて、実際のディティールみたいなものがもう少しあったらもっと心を砕いて読めるように思った。

 

第2位 週刊ビッグコミックスピリッツ2023年52号掲載 やながわけんじさん「煩悩」

紹介:32歳の誕生日にAVをすべて売ることで煩悩を浄化した男が、妙にエロいマンガ喫茶の女店員によって煩悩を再燃させられる話。ひら☆マン課題6でネームが切られた作品。
リンク:

bigcomics.jp課題6「煩悩」

hirameki.genron.co.jp

解説:

 今期のひら☆マン関係のマンガで一番笑ったマンガ。気兼ねなく読めるマンガのありがたさといったらない。こういう作品が手元にあると生活水準みたいなものがあがる感じがする。つまりありがたい。
 今期はあまりこういう底抜けにコメディなマンガってあまりなかった。だし、昨今のマンガの状況を見てみても、こういうドラマ×コメディで勝負しているマンガってあまり見かけないのでは?本当に読者が読みたい、ありがたいと思うのは実はこういう作品ではないかと思う。

 

第1位 最終課題 藤原 ハルさん「夜を泳ぐ魚たちは」

紹介:彼氏の借金を肩代わりしたことで体を売って生活している主人公の元に、70歳のブンジさんがお客としてやってくるお話。ブンジさんとのやりとりを経て主人公は自分の人生を生きることを誓う。
リンク:
跡地(現在この作品は非公開中)

hirameki.genron.co.jp

解説:
 言葉で要約することが難しいマンガ。個人的に、細かい工夫(言葉の選び方、急な場面の飛び、女の子の複雑さ)があるところに感心した作品。
 大塚が十分理解できているマンガだとは思っていない。でも、読んだ手ごたえとしては「なにかあるぞ」と思わされた作品。感想も成り行き上とはいえ、なんだか1000字くらいのものを書いてしまった。(ひらめき☆マンガ教室第6期 最終課題完成稿感想 #ひらめきマンガ - 玄関先の言葉置き場 参照)
 この作品のよい部分を簡単に言えば、マイナスから0の状態に復帰する少女のイメージを描いた上で、0の状態を荒波の心地よさのようなものとして描いている点。マイナスから0になるところで終わっていいはずの内容が、そこから一歩先まで踏み込んで描こうとしているところが平凡ではないように思える。
 この作品を作品単体で読んだときに、そこまで、根本的になにかすごいと思ったわけではないのかもしれない。だけど、この作者の人はなにかを挑戦しようとしている、と思ったし、実際その挑戦は形になりかけていると思った。ちょっとだけの変化かもしれないけど、でもそのちょっとはこの作家にとっては大きいことなのではないか、と思った。これだけマンガが描ける人がそういう挑戦をしようとしている、ということになにか心を動かされたのかもしれない。


最後に

 実のところ、今回のランキングは僅差でのものも多い。最終的には個人的な思い入れのようなところで決まったものもある。なので実は公平ではないところがある。でも、読者が何か作品を読んでよいと思う、ということにとって、そういう私的な体験が絡んでいることも実は大事なことなのではないでしょうか。それも読者の心を捉える、読者が作品に捉えられる、ということの一つだと思います。
 というわけで、以上ひらめき☆マンガ教室第6期ベスト25は終了!

おまけ

 ひらめき☆ゲリラ大賞の発表!!今回は3名の方にそれぞれ、ひらめき☆ゲリラ優秀賞、大塚賞、そして陽也賞を差し上げました。(悩んだのですが大賞は今回なし、ということにしました。)以下、賞の簡単な説明。

○ひらめき☆ゲリラ大賞および優秀賞
 「この作品は自分にも、あるいは自分に向けられて作られている」と感じたマンガの書き手の中で、「今後もこのラジオをがんばりますので、あなたもがんばってください。ともにがんばりましょう」というエールを送るべきだと思った方へ送る賞。

○大塚賞・陽也賞
 一年間作品を読んできた大塚が、「今後もあなたのマンガや活動を一ファンとして追っていきます」とお伝えしたい方に送る賞。今回はどうしても1名に絞れなかったので2名へと送る。


というわけで今期第6期のゲリララジオから贈る賞は
・ひらめき☆ゲリラ優秀賞 藤原 ハルさん
・大塚賞 ぼんち。さん
・陽也賞 ほりい泉さん
です。お3方ともおめでとうございます。詳細な理由はぜひ放送でお確かめください。

 というわけで、以上 大塚式☆ベスト25ひらめき☆マンガ教室第6期でした!第7期でまたお会いしましょう。ここまで読んでくださりありがとうございました!