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ひらめき☆マンガ教室第6期 合同誌 Bチーム「散財万歳」感想 #ひらめきマンガ

「散財万歳」全体の感想

タイトルからの期待

 この本は事前情報ではほとんどタイトルと表紙だけわかっていて、「散財万歳」というフレーズから、お金を使ったなにかよい話があるのかな、という期待を持って読んだ。ただ、実際に読むと、お金を使う話よりもお金を稼ぐ話のほうが多くてあまり明るい気持ちにまでは至れず、そこは期待が外れてしまった。とはいっても、あくまで個人的な期待の結果なので、それぞれのマンガの出来不出来とは少し違う感想に思う。

それぞれのマンガ
 個別のマンガに関しては、ほかのチームにも言えることだが、どれも悪い作品ではないのだが、しかし存在感の強い作品があまりなかったかなという印象だ。冒頭や終わりの目立つところに掲載されている作品が個人的にはあまり乗り切れず、個人的な体験としても惜しい感じがしている。
 よい作品をあげると個人的に深田えいひれさんの「ホス狂いの夜」と明青りんごさんの「プレゼント」がよかった。二つともお金を使う話で、読みたいものが読ませてもらったと思った。ただ、どちらの作品も並び順を見るに本の中の位置づけとしてはそこまで目立たせたい作品ではなかったのかもしれない。
 ざっくりとした全体への感想としてはこんなところだろうか。

 

マンガの感想

形井中へいさん「課金体質金子ちゃん」

 このマンガは試みはよいと思ったのだが、お話として結局なにがどうなったのかはあまりよくわからなかった。オチ付近にフィクションのヒーローは現実を救ってくれない、という趣旨のセリフも作中にあるのだが、さりとてこのお話もフィクションなわけだしね、と思ったり。ただ、お金を使うヒーローというアイデアはよく、1京円という馬鹿でかい単位を使うのはいいと思った。…しかし1京円ってめちゃくちゃ多いので物理的に食うのは難しいのではなかろうか、とも少しひっかかったりしている。とはいえマンガっぽくてよいなと思う。

 

桐山さん「パパ活JK、漫画を描く」

 このお話は悪くないと思う。自分はそこまで共感的には思わないのだが、若い女の子が世の中のおっさんを成敗するという話で、好きな人は好きなタイプのお話なんじゃないだろうか。ただ、やはり自分はあまり好きではないかなとも。主人公の女の子にもうちょっと共感できたらあるいは興味が持てたのかもしれない。

 

深田えいひれさん「ホス狂いの夜」

 こういうくだらないマンガがこの本では読みたかった、と読んで思った。最初から「札束の殴り合い」とか言ってるし、コンサルが看護師の二倍近く年収があるとか変にリアリティがあって、とにかくくだらない。マンガと言って、現実をつかって人を楽しませる物語って、こういうくだらないものが一番いいよなと思う。もちろん、もう少しマンガとして精度がほしいな、などとは思うのだが、

 

明青りんごさん「プレゼント」

 説明が難しいが、これだけやさしい世界観で一貫している話は自分には思いつけない、と思うお話だった。そういう自分にない目線のものが読めると気づきがあってうれしい。作画も非常に丁寧で気合が感じられ、いろいろな点で好感を持つマンガだった。

 

対談「米代恭×新川帆立 マンガ家&小説家のお金事情」

 この対談はまさに「二人がお金をどうやって使うか」という話がされていて、この本のタイトルの「散財万歳」にピッタリな内容だと思った。特に米代さんのマンガ家としての語りから、仕事と私生活とがシームレスにつながっていることを感じる。普段自分は、仕事は仕事、趣味は趣味、みたいにわけて考えがちで、その境界で悩まされるのだが、実はそれは単に生活が下手(スポーツが下手とか文章が下手とかそういうことと同じ)だということなのではないか?みたいなことを思わされる。読んでよかったと思う対談記事だった。


あい乙いなびこさん「一万円札」

 この4コマは豆知識コーナーみたいになっていて悪くないと思った。ただ、ちょっとこの本の中でどういう位置づけなのかわかりにくいかも?一冊の本の中の小休止みたいに何個か挟まるとクセになってくるのかもしれない。

 

ヤギワタルさん「日給100万円の日雇い労働」

 このマンガは、よくできていて決して悪くはないのだが、話の最後のまとめ方の部分で急にわからなくなってしまった。これはどういう意味のオチだったんだろう。作品としては不足があるようにはあまり思わないのだが、そこが引っかかっていてほかの感想が出てきづらい感じだ。

 

阿山カンフーさん    「決戦の決算」

 このお話はよいと思った。怪獣対策部×年度末調整のアイデアが面白いと思う。ただ、この作品の独自ルールみたいなものがあってついていくのが大変なようにも思う。とはいえ、一つのアンソロジーの中でこういう作品があるとどこか安心するような、魅力ある作品だった。

 

たにかわつかささん「金なる木」

 このマンガは悪くないと思う。ただ個人的な好みの話として、マンガを描いているキャラクターがお互いの人間性には触れず、思弁的・理念的なことだけやりとりしている、という部分で少し関心がそれてしまうようには感じた。この二人はそもそもなぜマンガが書きたいと思っているんだろうか(ほかの職業ではだめなのか?)、みたいなことをちょっと思ってしまった。もう少し広く、夢を志す人間のお話として読んでみたかったかな。

 

その他の感想

表紙・裏表紙などのデザイン

 悪い表紙だとは思わないのだけど、タイトルの「散財万歳」とこの表紙のイラストから察せられる内容がちょっと結びつきづらかな、と思った。表紙をみてこれがヒーローものの主人公とはあまり気がつかないんじゃないだろうか。それと、本を読んでいて思ったが、ひとつひとつのマンガの間は狭く、もう少し余白があると読みやすかったかもしれない。