玄関先の言葉置き場

主にひらめき☆マンガ教室の感想用。メッセージ等はおたよりフォームへいただければ、配信でお返事します。

ひらめき☆マンガ教室第6期 最終課題完成稿感想 #ひらめきマンガ

 作品の感想を書きました。順番はひらめき☆マンガ教室の名簿順です。こちらの感想配信で内容の補足説明をしていますので、感想の詳細やニュアンスが知りたい方はそちらも参考にしてください。よろしくお願いします。大塚

全18作品感想

形井中へいさん「志摩先生とうるるちゃん」 

 とても丁寧に作られている作品だと思う。うるるちゃんの表情の変化を読んでいくだけでも楽しい感じがする作品だった。一方、ストーリーやドラマの部分はけして悪い内容ではないのだが、冒頭から予想された展開がそのまま続いているように感じられ少し飽きてしまったというのも正直な感想だ。もしかすると迫力を出そうとするシュッとした演出とゆったりしたストーリーとのかみ合いが少し悪く映ったのかもしれない。とはいえ非常に丁寧で画面栄えを意識していることがわかる作品で、それだけにもうあと少し物語の部分にアイデアがあればと個人的には少し惜しい感じがしている作品だ。

 

明青りんご(あおりんご)さん「聖夜の女」 

 人物の作画がこれだけ丁寧に描かれていることに驚いた。これだけ作画に注力できるのはすごいことで、なによりヒロインが魅力的だと思った。意味ありげな女性のリアリティみたいなものがよく表現されていると思う。一方細かい話をすれば、話の結びはわかりづらいと思った。個人的にはプレゼントが破壊されたことは恋愛への終止符に思え、だとしたら男がラストで「オレも」「向き合ってみる」というのは結論として分裂しているような印象を持った。とはいえ、この作品の場合お話としての整合性の良し悪しはさほどは気にならず、こういう惑わせる女の人やそういう異性に惑わされたい男の人の感情みたいなものがよく描かれていることが大事な作品ではないかと思う。最後の課題作品でこういった特色のはっきりある作品が読めて、一読者としては非常に満足した気持ちだ。


アキオさん「私が家を燃やした」 

 深刻な話が友情としてさらっと回収される、その按配がよい話だった。自身の過去にとらわれている主人公に対し、女の子が”私にとっての物語”を伝えるだけに終始するシンプルな構図が、問題の繊細さをより感じさせるように思う。個人的に、終わり方がわかりやすくも着地した感じが出ておりそこがよかった。

 

深田えいひれさん「可愛がり専用職員」 

 これはいいマンガだった。個人的に今回の課題作品の中でも評価が高い作品だ。女体がドンと登場する構図や、急に主人公が無双する展開もメリハリがあって普通に楽しく読んだ。個人的に、女幹部を倒したあとの14pの「ダメ人間なんかじゃない」が、特に脈絡はないが切なく熱いセリフで好きな表現の仕方だと思った。さらに作画の精度を上げるとよいのだとは思うが、16pの中で可能な限り工夫を凝らしているよい作品だと思う。

 

ぼんち。さん「めるとDT(ダウンタイム)」 

 企画がちゃんとしているお話で、この短話に限らずさらにいろいろなエピソードが想像できるお話だった。このように構想が練られていて説明が丁寧なら、それだけでも十分読み応えがあるのだなと感心しながら読んだ。ただ、このお話単体で読むと設定の説明に終始していて、ひとつのお話としてのうまみみたいなものは感じづらいとも思った。個人的には、「整形してまで元カレに再開するってどういうヤツ?」と読みながら突飛な設定を理解することで体力を使ってしまった感じだった。だが、よくかけている内容なので人によって感じ方が違うと思う。ぜひうまくいって、連載でまた続きが読めるのを楽しみにしている。

 

ひむかさん「プリンセスを探して」 

 実はこの作品は、個人的にはネームと完成稿でかなり印象が変わった作品で、端的に言うととてもよかった。ネームの段階では、周りに気をとられて自分で判断ができない状況の主人公がそのまま終わってしまっていると感じていたのだが、完成稿で変更されたお話の終わりの主人公の考えたファッションショーのシーンがすこぶるよくて印象がガラッと変わった。お話のまとめ方しだいでこんなにも内容が違って見えるのだと驚いている。
 このファッションショーの無言の演出は、白雪を説得するには言葉では無理だろうと思わせる前半のフリと、かぐやの本当の思いが他人への否定ではなく自分の解放にあったことにうまくかみ合っている。個人的には、なるほど、この二人は直接の言い合いではないコミュニケーションであれば和解が可能だったのだ、というように結論を読めた内容で、回答のしかたに感心した。作画的な良さと内容の説得力がマッチしている内容で非常に気持ちのよいところがある。ぜひ多くの人に読まれてほしい。

 

はやしなおとさん日本とドイツのモノレール乗り比べてみた」 

 作画がラフになってしまったのは残念だったが、内容的にはネームのときに比べてまとまっていて読み応えがあった。流れのキレのよさがあって、特に姉妹鉄道なことに疑問を持ってからたった3コマでドイツまで行く流れはやはり読んでいて気持ちがいい。この教室の作品ではあまり完成したものが読むことができなかったが、この作品に限らず、どこかでまた完成したものが読めたらうれしい。

 

あい乙いなびこさん「怪物」 

 このお話は怪物のデザインがいいと思った、というのが一番の感想だ。書き込みが増えてディティールが加わった結果、世界観のようなものが想像できるようになったと思う。個人的には、このお話は壮大に何も起こらないお話だが、本当はなにか起こってくれたほうがうれしいな、とも思う。とはいえ1ページマンガとしてはこれはこれでいいのではないだろうか。

 

やながわけんじさん「オタクに優しいギャルの兄ちゃん」 

 このマンガは非常によくできているのだが、個人的にはこのふざけたような内容でこれだけ暗いしっとりとした雰囲気になったのが意外だった。これはこれでいいとは思うのだが、もう少しからっとした終わり方があったのではないか、というような勝手な感想も持っている。ネームの段階ではコメディ色が強い内容を想定していて予想が外れていることもあり、やや混乱中だ。
 とはいえその混乱を差し引いていうと、このマンガは演出が光っているマンガだと思う。自分が読む限りこのお話は、妹に異常な愛情を向けている兄が気持ち悪いだけかと思いきや、実は妹のほうも負けず劣らず異質な感情を兄に持っていて、そのことも含めて「キモい」と最後につぶやく、という内容だと思う。それを読者に知らせる演出が繊細でうまいと思った。個人的に、19pの鏡に映る妹の線が人間ならざるもののように見えるのが絶妙なバランスで、ホラーのようでもあり異界を見ているようでもあり、なかなかこういった表現は読めないと思った。
 ただ、混乱と上に書いたように、個人的に主人公の実存みたいなところに少し近づくしっとりした部分が個人的には読みのストレスになっていることは感じる。感想としてうまくまとまりきらない作品で、もう少し自分のコリをほぐしてから、もう一度改めて読んでみたい作品だ。

 

mimixさん(馬場逸さん)「あこがれ」 

 こういったほとんど説明のないお話は久しぶりに読んだと思った。言葉で感想を残すのが難しいタイプのお話だが、思春期にあるような頭の中の妄想と現実の混濁のようなものをそれひとつにテーマとして絞って描いていることがわかるつくりだと思う。その点、一見不親切に見えるがこれはこれで実はわかるようにできている内容だと思った。言葉の少なさがイメージを誘ういい作品だと思う。

 

中山懇さん「姉は人魚姫、40歳。」 

 このお話は絵がきれいで海面に出るシーンが心象風景的にもキレイなお話だとは思ったのだが、いまいち主人公の抱える鬱屈や海面に出ることの解放感には共感しづらかったお話だった。ぼんやりとは伝わってくるのだが、はっきりとした形で「こういうことが題材なんだ」とまではうまくつかめていないのが正直なところだ。なにか描こうとしているテーマの切実さがあって描いているお話なのではないかと思うのだが。

 

藍銅ツバメ(らんどうつばめ)さん「あらゆる文士は娼婦である」 

 このマンガは面白い。個人的には、内容のテンポのよさもよかったがそれ以上にキャラクターのデザインと作画がきっちり整っていることが好印象だった。やはり、3人が名刺交換をしているシーンのカオス感は読んでいて笑ってしまう。あえて言うなら、フキダシの線が(おそらく意図してではなく)背景とかぶってしまっている部分が何箇所かあるのは時間がなかったのかな、と思った。とはいえ、個人的にも非常に楽しませてもらった作品だ。

 

くまのぶさん「小食二郎訪問 ~環七一之江店~」 

 コンパクトだが読み応えがある作品だった。ネームから内容は変えずに構成が変わっていてとてもまとまりがよくなったが、特に最後のページの引きのショットの追加が主観が強くなりがちなエッセイマンガへのアクセントになっていて読んでいて気持ちがよかった。ベタな感想だが、読んでいて外食がしたくなるというか、こういう自分の好きを満喫する時間が恋しくなるマンガだった。

 

大須健さん痴話喧嘩無敗伝説」 

 このマンガは背景や人物の作画が非常に凝っていて、また内容もネームに比べてテンポがよくなっているように感じた。特に最後のエピソードに抜け感があるのがよかった。個人的には面白く読んだマンガなのだが、ただこういう同じテーマの短編が並ぶタイプのマンガを読む媒体があまり想像がつかないとも思う。アイデアが一つ一つ富んでいるのでそれぞれのエピソードは面白くはあるのだが。人によって反応が異なる作品のようにも思える。個人的には、マンガとしての画面作りや面白いエピソードをこれでもかと詰め込んでいる点を評価したい作品だ。

 

藤原 ハルさん「夜を泳ぐ魚たちは」 

 このお話は亀を使ったスケール感の広さや、お話の構成や言葉選びのうつくしさ、またマンガとしての精度の高さと、どこをとってもすばらしさしかないお話だった。筆舌に尽くしがたいとはこういう作品のことを指すのかと思った。
 あえてひとつ感想をあげるなら、物語の終わりで主人公の女の子の股から血が流れるシーンは意味深く、その意味についてはいろいろなことを考えた。
 作品にはそう描かれていないが、おそらくこの主人公は親友が亡くなって彼氏の借金を背負ってから生理が来ていなかったのだろうと思った。去勢せざるをえなかったブンジさんに対比するように主人公の体がラストで性的な健康を取り戻す対比の構図がきれいなのだが、しかし、そこで取り戻された健康は主人公の苦難を解決しているのではなく、むしろ主人公が自分自身(の体)と向き合わざるを得なくなったことを示唆しているように見える。普通、自分自身の傷に向き合うことはそれ自体がマイナスのイメージを伴いがちだが、この作品では同じその状況を自分自身の傷を受け止められる状態まで回復したこととして描くことで傷(この作品の場合けがれといったほうが適切かもしれない)を肯定的に描こうとしている。これはマイナスから0へと向かって行く人間を描くこの作品の想像力の結果なのだと思う。
 自分がこのマイナスから0へと回復するイメージが重要だと思うのは、普段人は生活が安定している間はあまり気にしないが、ふとした拍子にそれまでできていたはずのことができなくなったり、そもそも”普通どおりにすごす”ということを見失ってしまうタイミングがあると考えるからだ。たとえば、人が疲れて自分自身に向き合うことが難しくなって問題を放置し始めたとき、実は先送りにした問題の内容そのものではなく、そもそも正常に判断するということがどういう状態だったのかのイメージがだんだんと壊れていってしまうことに本当の深刻さがあるように思える。この作品で描かれる、主人公の未果の置かれている過酷な境遇とそこからの復帰を描く一連のストーリーは、そういった失われてしまった正常な状態をイメージする想像力自体の回復を図っているように思える。
 本来このお話は主人公がブンジさんの死に涙し感情を取り戻す、というところで終わっていていいはずの内容ではないかと思う。しかしこの作品ではそこを超えて、取り戻された感情が主人公に何をもたらしたのかまでを描いている。そのとき、つまりマイナスが0になるイメージが回復されたときに主人公に認識されるのが自分自身の”血”だということからは両義的な意味が匂ってくる。これは直感的な捕らえ方に過ぎないが、この”血”は”向きあうことが困難なものとしての生”の比喩だと考えられるのではないだろうか。
 この作品からは、生きて行くことを手ごわいことだと認めた上で、その中でどうやってその手ごわさに向き合う回路を見出すことができるのか、という実験があるように思う。その向き合う回路が見出されるのは満たされる人間の中からではなく、むしろ悲しみや現実を背負う欠損を持つ人間たちの営みからこそ想像力の余地として取り出すことができるのではないか。回復の先に困難が匂わされるというこの作品の終わり方からはひょっとしたらそんな思考が読み解れるのではないだろうか。

※放送後不十分と思い、大幅加筆修正しました

 

たにかわつかささん「カイジューのちいちゃん」 

 このお話は、おそらく健康を害した人がだんだんわがままになっていく姿をカイジューにたとえたお話だと思う。個人的に興味があるテーマだったのだが、ただ、実際に読み進めるとお話の結末が単なる口ゲンカに終始していてカイジューとヒーローの戦いであることにあまり意味が乗っていないことを不足に思ってしまった内容だった。ケンカといって、実のところどちらもあまり身を切っていないように感じたのが一番不足に思えた点だったのだと思う。ちいちゃんがカイジュー化してしまうシーンまでは非常にわくわくしながら読んだのだが、やはりこういうお話は結論に共感できるかどうかが重要だと思う。このお話は自分の興味に近いテーマなこともあって、どうしても辛い見方になってしまうお話だった。


ヤギワタルさん「警察不在の街」 

 このお話はいわゆるキレのあるお話になったと思う。はっきりと陰謀論的なイヤな空気感を持つお話になっていて、今までのこの作者さんのお話に比べてわかりやすいと思った。ただわかりやすくなった結果、個人的にこういったつらいお話が苦手なこともあって、どうしてこんなにつらいことばかり起こるお話に…とも思うようになった。(でも、そういうこと自体をエンタメとして楽しませる作品なのかなと思う。)作画的にも作劇的に非常によくできている作品で、こういうお話を楽しめる人にぜひ読んでほしい作品だと思う。

 

山岡兄弟さん「パティスリー・ヨシダ」 

 なにか壮大なことが描かれているお話だと思うのだが、内容が高度で自分ではうまく読み取れなかった、というのが正直な感想になると思う。ネームからページ数が絞られていてその点さっぱりと読めるようには感じたのだが、おそらく、キャラクターにあまり共感や興味がもてずお話について行くのが難しかったのだと思う。内容的に悪いとはまったく思わないのだが。なにか寓話的なことを描こうとしたお話だったのだろうか。

 

おまけ

 ひらめきマンガ+にも一時的にアップされていたようで、せっかく雑誌に掲載されたということなので感想を残しました。2024/3/17

桐山さん ヤングキング掲載「トビウオと深海魚
 パっと読んで、主人公の小泉のオフのときのキャラクターデザインが良いなと思った。なにか艶があるというか、家族を見るまなざしや自分を捉える視点にリアリティが感じられ、このキャラクターからはドラマが起こりそうだと思う。一方ヒロインの前村さんは個人的にはいまいちよくわからなかった。小泉くんがこのエピソードの中で前村さんのことが少しでも好きになった部分がいまいち想像できていないのだと思う。
 個人的に小泉くんのネイルを前村さんが肯定する部分がこのお話の重要な部分だと思うのだが、最初読んだときは良くわからなかったが、これが小泉くんが女性なのだったらここで二人の間に関係が生まれるのはとてもよくわかると思った。でも実際には主人公は男性なので、この「めっちゃかわいいじゃん」という前村さんの反応で喜ぶ小泉くんの感情をイマイチつかみ損ねてしまっているのだと思う。違う言い方をすれば、このネイルの話は友情的なもののモチーフに思えるのだが、このお話自体は最終的には前村さんのスパッツが見えるという異性愛的な部分に落ちる。そこがミスマッチに感じられたことがこのお話の意味のとおりを悪くしている部分なのではないか、ということをこのネイルのシーンからは想像する。
 とはいえ、さすがに雑誌に掲載されているだけあって、画面がうまく出来ているお話だと思った。朝日を一緒に眺めるシーンも、個人的にはこれが友情の話なのだと思うと明と暗のある二人に同じ光がさすというかなりグッとくるシーンだと思う。なので、やはりこの話の場合は恋愛的な部分がなにかわかりづらくさせてしまっているのではないか、ということを思うのだが、実際はどうなのだろうか。