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ひらめき☆マンガ教室 第5期 課題1 完成稿感想 #ひらめきマンガ

課題1の完成稿作品の感想を書いたので公開します。掲載順番は上から教室の受講生順です。感想へのご意見などはこちら、もしくはツイッターまでお願いします。(コメントはいつでも歓迎です。)大塚

後日、かわじろうさんと吉田屋敷さんの作品の感想も追加しました。

最終更新:2022_05_07_13:00

全14+2作品感想

nonakaさん「入り船に良い風」

入り船に良い風 | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 ネームでは空間が主人公のように感じていたのだが、こうして完成したものを読むと空間ではなく人間が主人公だったことがわかる。それぞれのキャラクターの深度にあまり贔屓のない作風も相まって、人のやりとりを少し俯瞰した目線から描こうとしている特徴が出ていると思う。ただ人間の話であることを強く感じた分、逆に、主人公が作中の二人とのやり取りで何を感じたのかはより気になるようになった。自分のことをからかいながらも心配してくれた女性の先輩が結婚して出ていくと知りどんな気持ちになったのか。自分をちゃんと叱るベテランの先輩が仕事仲間を何百人も見送ってきたと聞いてどんなことを感じたのか。きっと本当に少しでいいから、ちょっとだけ、主人公の気持ちを教えてほしかったな、という感想。

 

あさかたこれ太郎さん「みなそこにねむれ」

みなそこにねむれ | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 ネームに比べると書き込みがさらに細かくなり世界観が緻密にわかるようになった。その分だけ話の解像度も上がって感じられた。何がどうなった話を書こうとしたのか以前よりわかるように思った。ただ、どこが意図的でどこが意図的でないか理解が進んだ分、ラストの「…ぜんぶ…、私のせいだ。」「見えなくなってしまったのではない…。/見えるようにしてしまったのだ…。」の意味が不明瞭で、そこが浮いて見えるようになった。おそらく、主人公がなにかから目を背けたせいで空中を漂うだけだった幻覚たちが実体化して世界の破滅を加速させた、ということじゃないかと思ったのだが、いまいち自信が持てない。あさかたこれ太郎という作家を知る一つの作品としてはもう十分な出来だと思うが、数あるマンガの中の一つとしてこの作品を見た場合にはラストのたたみ方だけちょっと惜しく感じただろうか。

 

降原さん「カノンノさんがくる」

カノンノさんがくる | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 オチの激しさに元気が出た。15pの「王子様」のコマの表情の変化も含めてネームよりも良くなっていると思う。一方でアピールにある「『意識が高そうで鼻につく』キャラクター性」は読んでいても十分に理解できなかったのが惜しい。意識が高そうだとは確かに感じたのだが、そのことに対してつっこんでいいのかと(作品とは言え作者をモデルにした主人公ということもあって)躊躇してしまった。ヒロインのキャラはよいけど主人公があまり魅力的でない、というパターンは今までの教室でも何度か見てきたので、そういう傾向があるのかもと頭の隅によぎった。

 

葉野赤さん「こころのもののけ

こころのもののけ | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 これは単にわたしの読解力不足だと思うのだが、ネームの時に比べてこの完成稿では主人公に好感を持った。あまり無理を感じないというのか、ネームの段階では強さにこだわって周りが見えなくなっているキャラクターだと思っていたのだが、完成稿を読むとだいぶ印象が違い、単純に頑張り屋な女性に映るようになった。ネームの段階でもう少しちゃんと読んでおけば気づけたのではないかと、その点で無責任な感想になってしまったと反省している。そのうえで読んでいて気になった点を言うと、主人公と座敷童の関係がこの物語を経てどうなったのかがさらに知りたかった。作中では主人公と座敷童は、どことなくずっと一緒にいたかのような関係になったように見えるが(あるいは主人公からするとある意味でモノノケはそういう存在なのかもしれないとも思うが)、実際はそうではないので、他者として二人はどんな関係になったのかが知りたい。他者としてどうなったか、あるいは他者ではなかったのだ、でもいいと思うが、主人公は座敷童を何者だと思ったのか、何か返答が用意されているとよいのではないか。二人の出会いが冒頭に描かれているので、それに対応した別れが描かれていると二人の関係が収まった感じが出るように思う。

 

かわじろうさん「よりみち」

よりみち | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 ネームの段階ですでに良い作品だと感じていたが、完成稿ではそこからさらに一段とよくなっていて驚いた。また、影の描写が新たに加わっており、作品から艶のようなものを感じさせられる。欲を言うとというか、若干不満があるとすると、マルコとセバスの関係性への言及が弱いことが気になった。オチではセバスがマルコの趣味についていくのことがわかるのだが、しかし結局このマルコ(というか趣味の世界)との出会いはセバスにとってはどんな出会いだったと言えるのか。出会う前と出会ったあとではセバスの世界はどう変化したのか、そこがもっと具体的に知りたい。

 

泉ころろんさん「繊細だけど、優しい君へ。」

繊細だけど、優しい君へ。 | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 この作品は絵本のような手触りがあるマンガで、だれかがほかのだれかに向けて書いたような感触がある作品だった。そのおかげで温かさが感じられ、読んでいて心地よい。ただ反面、感触がはっきりあるぶん、細かな情報にも意味が感じられるようになっており、とくにわたしの場合は言葉の使い方がところどころ気になってしまった。(例えば1pで「彼は優しい人だ。」の書き出しに対して「だいたいいつも私が話しかける。」が対とセリフとなっているが、意味的にはその後の「いつも、話を聞いてくれて…」が対となるべきではないか(つまり「彼は優しい人だ。」の対として”だいたいいつも彼が話をきいてくれる”のようなセリフが想定される)、など)こういった作品の場合特に、要素を加えることではなくすでにある要素を壊さないことが大切なように思う。

 

森紗はるきさん「愛川さんはアートディレクター」

愛川さんはアートディレクター | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 完成稿になって驚いたのは画面の使い方。視覚表現に疎く自信がないが、紙に印刷したときに映えそうな画面作りだと思った。キャラや擬音に関してもだが、画面作りがまとまっていて情報が入ってくる。一個だけ惜しかったのは愛川さんが笛を吹くシーンだ。せっかく盛り上がるシーンなのでネームの時のような魔法を使っている感じがほしかった。ただ、このマンガは読んでいてカロリーを無駄に消費させられる感じがなく、肩の力がぬけてとても良かった。この肩の力が抜ける感じは今後色んなマンガを描くうえで武器になるのだろうと思う。

 

中西ゆかりさん「ヤクザから出世を約束された男」

ヤクザから出世を約束された男 | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 読んでいて最初に感じたのは、15pを開いた時点で、アピールにも時間が足りなかったとあったため「未完なのかー」と思ってしまったということ。15pはせっかく盛り上がる場面なので気合が入った土下座を見てみたかった。未完なのか、と思うと読む方も気分が落ちてしまう。嘘でもいいので完成です、と言ってほしいことがあるのはそのためじゃないかと思う。(とはいえ「完成です」というそのためには重要なシーンから順にラフでなくするとか、意味に応じて解像度を調整するとか言った技術が必要なはずなので、それもまた作品を作るテクニックの一つだろう。)大変面白い話なだけに、途中から力尽きてしまった感がダイレクトに伝わってきてしまったことが惜しかった。

 

滑川王手さん「わたしという沼」

わたしという沼 | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 このマンガはネームからよく修正してあり、よく完成させたと思ったのだが、反面、ネームを読んだときのようなギャグのインパクトはあまり感じられなくなってしまいそこが残念だった。ギャクが弱く感じられた理由はおそらく、コマの割り方の変化(線で割っていたのが枠で割るようになった)や、微妙なセリフの変化(3p「!?」の省略、5p中段の滑川の表情の変更、9pの抜けの省略など)で少しづつ印象が変わった結果だと思う。ネームの段階では非常にスムーズに感じられていた会話のバランスが修正によって変化しており、結果的にギャグとしてはむしろ弱くなってしまったのではないかと感じている。ただ読んでいると、作品をよりよくしようといろいろな変更を加えたことが伝わってくる。こういういい方も心苦しいが、修正前のほうが面白く読んだ。だが、修正を加えたことや、作品として完成させたことがよいと思った。その両方ともを感じたのが正直な感想だ。

 

鷹鯛ひさしさん「汚い犬」

汚い犬 | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 実はネームのときは、主人公が殴り返さないのはどうしてだろう、と気になって考えがストップしてしまい、それ以上内容の理解が進んでいなかった。しかし完成稿になってこの作品が、主人公が仕事を辞める時に上司を殴らずに黙って出ていくことができてよかった(それは過去の犬との記憶によって助けられたものだった)、という話だと気づかされた。14pの犬の表情がとてもいい。訴えを持っているとは、必ずしも訴えに出ることとイコールではないのだと思わされ、個人的にはハッとしたことだった。難しいテーマに対してちゃんと回答を出しておりすばらしい作品だった。

 

いとしろたかやさん「大人になったら」

大人になったら | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 教室でも指摘されたというまこと先生のキャラクターに修正が加わっており、さらにそれが大人の問題への間接的な回答にもなっていて、たいへんよかった。素朴な感想だが、やはりお互いがお互いのことを思う話はいい。個人的な欲を言うと、カナちゃんがどこを見てまこと先生という人間を感じているのかをもっと読みたかったように思う。見たところ、まこと先生とカナちゃんとで相手を見る解像度が違っており、その解像度の違いに対するコントロールが作品としてどこまでされているのかが知りたい…と思った。もしそこが描ければ大人の問題についての深みが増し、さらに作品に奥行きが感じられるようになるのではないだろうか。

 

たにかわつかささん「リベンジヒーロー」

リベンジヒーロー | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 ネームの時と同様の感想になってしまうが、友人とのやりとりがよい作品だった。特に、二人のケンカがお互いにしっかり理由を持っているところがいい。ただ、主人公が12pでの人助けに際して自分のコンプレックスを持ち出しているところは、ちょっとそれはヒーローとして違うのではないか思ってしまう。これだとなんだかヒーローとして好感が持てないというか、たしなめられるべき言動をとってしまっているように感じる。(たとえばこの場面が人命と自分のダサさとではなく、人命と自分の身の危険との間で悩む場面などであればそうは感じないのだが。)とはいえ、特にこの作品はケンカのシーンにストレスがないところがよかった。こういうリアリティある描写は今後も読んでみたい。

 

千住ちはるさん「寝ない子劇場」

寝ない子誰だ | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 完成稿になって細かい表情や作品の方向性などははっきりし、その分読みやすくなった。個人的には、うーちゃんの表情がネームの時よりも豊かになったところがグッドだった。一つだけ気になったところというか、注文めいたことをいうと、ストーリーの最後が事後のお父さんの目線になっているが、その事後のお父さんは作中に現れていないことが気になる。(例えば、ここで寝ているお父さんも同時に描かれていればそうは感じない。)作品内容的に問題があると言いたいわけではなく、ストーリーが最後に開いた感じがあればうれしいと思ったということ。感覚的には、この話が寝る話なので起きたところが描かれていると平和でよい気がする。暗闇で、子どもと一対一で、と閉ざされておりて狭い要素が強い話なので、作品のどこかに解放感があるとうれしい、ということかもしれない。

 

KenTaさん「甘ちゃん」

甘ちゃん | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 内容的にはネームと変わっておらずほっこりしたのだが、内容外の細かいところで少しづつ読みづらく感じた。(例えば枠線が重ね書きしてある部分があることや、フキダシの太さが箇所によって違うことなど。)加えて、ラストの変更は修正が施してあってよかったが、しかし内容についての納得感はいまいち感じられなかった。作中にあるような、大人になって絵がうまく描けないことと自身の幼少期のことを後悔することとは、それだけではあまりつながらないような。意味内容からというより、オチの形式としてなにか適切な状況設定がほかにないだろうか。

 

晃てるおさん「結果良ければすべて良し?」

その仕事を続ける理由 | 超・ひらめき☆マンガ家育成サイト

 ネームの段階より物語が発生していてその意味でよくなっていると思ったのだが、しかしこの内容だと作品として未完のように感じてしまった。起承転結の承で終わっているような印象だ。(例えばこの後に、男の部下にこの件が知られるとか、後日自分も上司から叱られるとか、この出来事に対するリアクションが本来用意されるように思う。)これは別に内容にストレスがあるとかいうことではなく、単に先が描かれていないのがもったいないということ。課題の提出が思ったようにできないことはあると思うが、例えばアピール文にこの先がどういう展開になりオチをどうするつもりかなど(あるいはそのことで迷っていることがあるなど)がちょこっと書いてあったりすると、読んでいる側も作品が少し不十分でも納得するかもしれない。

 
吉田屋敷さん「飛んで五十年」
 この作品の評価は少し難しい。というのも、例えば、主人公がいて、その主人公が何か体験して…という意味のマンガのめくりの面白さで言うと、面白みが弱い作品になっていると思う。しかし、この作品を書いた人がいて、その人が何を思ってこういう作品を作ろうと思ったのかがいかに親身に伝わってくる作品か、という意味ではこの作品は大変優れたマンガになっていると感じたからだ。個人的には、自身が受け取るべきと思った手紙をうけとるために労力を費やした主人公が、手紙を受け取ったと感じたことによって自分自身の原動力を再発見するに至る、という筋をもったこの作品はもっとも評価されるべき作品の一つだと感じる。ただ前述のようにマンガとしての具体的な不満も一方ではあって、主人公が曾祖父のとりとめもない手記のなかから曾祖母の死が書かれているところを見つけた瞬間が描かれる11p12pの部分で、主人公の表情が飛ばされて主人公の独白につながってしまうところが不満だった。ここでは主人公がどんなことを感じたのかが省略されているため、読者に受け取り方の判断を任せすぎてしまっているのではないだろうか。これは感想を書きながら考えたことだが、作者の方がこの作品を作っていて、この主人公はこうするべきだったんだ、と思ったことを主人公にもっと自由にさせていいんじゃないだろうか。自分自身がしようと思い、しかし現実にはできなかったifの世界を書く、というのも、私小説的な物語の醍醐味ではないかと思う。