玄関先の言葉置き場

主にひらめき☆マンガ教室の感想用。メッセージ等はおたよりフォームへいただければ、配信でお返事します。

ひらめき☆マンガ教室 第6期 課題3 完成稿感想 #ひらめきマンガ

 作品の感想を書きました。順番はひらめき☆マンガ教室の名簿順です。こちらの感想配信で内容の補足説明をしていますので、感想の詳細やニュアンスが知りたい方はそちらも参考にしてください。よろしくお願いします。大塚

全16作品感想

赤い氷さん「人間」

人間

 この作者さんの作品はいつも作風に驚かされるが、今回の作品も全く自分にはない発想で描かれていると感じた。スライム化する世界もビジュアルに驚くし、その世界の中での肉体のやり交換も全く思いつかなかった。一方で、この男女二人の関係が結局なにがどうなったのかはちょっとよくわからなかった。事象としては理解できるのだが、このことによって登場人物たちがなにを感じたのかにもっと説明が欲しいかなという感じだ。とはいえ、この作風は他人にはマネが出来ない武器だ思うので、ぜひ今後もがんばってほしい。

 

ぼんち。さん「シちゃった。」

シちゃった。

 このマンガは個人的には好きなタイプのマンガだ。単にわたしには合っているだけかもしれないが、小物がちゃんと入っていることや導入のネームからの修正など、描き方に積極的な姿勢を感じた。ただ、これは色んな意見がありそうだが、個人的にはオチは急に終わっている感じがする。この件でたぶん二人の関係が変化すると思うのだが、その辺りをうまく描いてほしいと思った。ただ、もしかしたらわたしがうまく読めていないだけかもしれない。勢いだけでなく丁寧さが見える作品で、気合を感じるいい作品だと思う。

 

きぬばりさん「本草狂!久佐の煎じ薬」

本草狂!久佐の煎じ薬

 この作品はネームに比べるとこちらのほうがすっきりしていてよくなっていると思う。ただ、スッキリして話の内容がクリアになったためか、冒頭で担ぎこまれるコロリの患者が特に手当てされないことはより気になってしまった。これはこうならなくてはいけない事情がなにかあったのかどうだったのだろう。とはいえ、最初の完成稿でこれだけ絵的にもしっかりしているのはたいへんすばらしいと思う。本草学を使ったこの本格的な内容は普通に気になるので、今後もぜひ読ませてもらいたい。

 

あい乙いなびこさん「お酢

お酢

 このマンガはいいんじゃないかと思う。間や演出で楽しませるタイプのマンガなので、この内容ならもう少し画力が求められるのではないかとは思うが、夫婦の微妙な距離感への味わいがあって面白かった。個人的にはネームの段階では全然内容がわからなかったので、あそこからこれだけわかるものになるということにも驚いた。
 一方、個人的にどちらが主人公かがわかりづらいことは少し気になった。気にしすぎなのかもしれないが、パッと画面を見ると常にコマの右手にいて左を向いているのが奥さんなので奥さんを主人公においていると思えるのだが、人物の描き方的には奥さんをミステリアスな人として描いて男性を普通の人として置いているので、これはどちらかというと男性から見る視点で描かれていると思う。そこが少しぶつかっていてわかりづらく感じたのではないか、と思っている。
 ただそのことが気になるのも、十分わかるように面白く描けているからこそだと思う。今までのこの作者さんのマンガの中で一番違和感なく楽しめたマンガだった。この調子でがんばってもらえたらいいと思う。

 

やながわけんじさん「私立は友達じゃない」

私立は友達じゃない

 このマンガはとてもよかった。等身大の中学生の生活の雰囲気みたいなものを感じさせる内容だと思う。特にネームから修正のあった14pの指をなめるシーンが、どういう意味かわかるシーンでよかった。こういう、ある意味で普通の場面を切り取った話を物語として読ませてもらえることが贅沢だと感じるマンガだった。

 

桐山さん「そこにAIはあるんか」

そこにAIはあるんか

 この作品はネーム的にはよかったのだが完成せずということで残念。ただ、八丁堀さんのビジュアルが見られてうれしかった。男性の女装が妙にきれいな感じがよく出ていると思う。個人的にも楽しみにしていたネームだったので、今後機会があればぜひ完成させてもらえたらうれしい。

 

七井一汐(なないつ)さん「2人の孤独」

2人の孤独

 この作品は個人的にはネームから引き続き、現実に対するまなざしがあるところがよいと思う作品だった。こういうはっきりした感じがあることは稀有だと思う。一方内容的にはややわかりづらかったところもあり、特に12pでカイが抗議するおじさんに敵意を向けるところは少し唐突に思った。アザの原因を作った側ではなくその生きづらさを膨張させる人たちに対する怒り、と文脈的には読み取れるものの、ここはキャラクターの怒りの様子を丁寧に描写してほしい部分ではないかと思う。ただ、個人的にはこういうフィクションのようで現実のことを描いているような作品は増えたらいいと思う作品で、今後も読みたいと思う。今後もがんばって欲しい。

 

中山懇さん「俺の性的問題と彼女の事情」

俺の性的問題と彼女の事情

 この作品は基本的にはとてもよく描けていると思ったのだが、作品全体に表れている屈折感みたいなものがよくわからないところがあり、個人的には読み方が難しい作品の一つだった。たぶん、自分の読み方が下手で、本来引っかかるべきではないポイントでひっかかっていると思うのだが、たとえば6pの主人公のセリフが「俺が助けてやる」とわざわざ「~してやる」なっているところなどが引っかかってしまっていて、この二人の関係や描こうとしていることにうまくノれない感じだった。ただ、この作品のモチーフは若者特有の屈折や卑屈ゆえのクズさみたいなものがテーマの中心だと思うので、これはこういう形でよいのだと思う。

 

藍銅ツバメ(らんどうつばめ)さん「フルーツ王国のイチゴちゃん」

フルーツ王国のイチゴちゃん

 この作品はなんともいえない読後感で非常に気に入ってしまった作品だ。複雑な内容ではないと思うのだが、イチゴちゃんが涙(果汁)を飲むシーンはぐっと来るものがある。(涙と果汁でかかっていることに何度読んでも感心してしまう。)また、今までの作品もそうだが、やはりひょうひょうとしたやりとりがいい。特にこの作品はシリアスな部分とのギャップになっていてその落差に味わいがあった。あえて言うなら、ネームから変化している4pの1,2コマ目はどういう時間経過のシーンかわかりづらいとは思う。ただ、わたしが単によく読めていないだけかもしれないし、そうでなくとも教室のマンガとして色々試してみてもらえたらよいと思うので、全然よいと思う。今回も読後感がしっかりある作品で、とてもよかった。今後もがんばって欲しい。

 

くまのぶさん「新しい春へのダンス」

新しい春へのダンス

 この作品は、キャラクター二人のバランスがよい作品ではないかと思う。特に鮫島さんの明るさは、個人的に、自分ではこういうキャラクターは作れないと思うものだった。一方で、読んでいて気になったのは、菜綱のバレエの”失敗”が何を指しているのかがこの情報だけだとハッキリしないと思ったこと。この内容だと足をケガをしたともとれるし、単にステージの上でコケて精神的なプレッシャーで立ち上がれなくなってしまったことだともとれる。すこし細かいことかもしれないが、個人的には読み取りに少し迷いが生じる部分だった。とはいえ、このお話しはよいと思う。こういう人の暖かさみたいなものを感じられる作品はまたぜひ読ませてもらいたい。

 

大須健さん「あのときの千円」

あのときの千円

 この作品はネームに比べるとわかる内容になっていて16pの内容としてはよくまとまっている作品だと思ったのだが、正直にいうとこの作品をどういう作品と思えばよいかがよくわからなかった。特にこの冗談のようなオチは内容の深刻さや私小説的な題材に対して回答を避けた終わり方に個人的には映る。ただ、わたしがこの作品についてよくわかっているとは思えないので、たんに理解不足なのかもしれない。なにか描きたいことがあることは伝わってくるのだが。

 

藤原 ハルさん「ふ・れる」

ふ・れる

 このマンガはなんだか変なことをしていて面白いマンガだと思った。2pのガスマスクの図だったり、6pの女の子の「キス/するのかな」というコマの表情だったり、少しずつ予想と違う描写が入っていることが楽しく、こういうことをマンガでして欲しいんだとうなずくように読んだ。すでに十分よく出来ていると思うが、あえて言うなら個人的には4pから7pにかけてセリフとキャラクターの連続にやや圧迫感があるようにも感じる。完成度が高いゆえの話ではあるが、もしさらになにかというならここはさらに工夫があってもいい部分なのかもしれない。

 

高月晃太さん「接触の時間」

接触の時間

 この手の女の子が会話している系のマンガは自分では不得手だと思っているのだが、不得手なりにこの作品は女の子がかわいくていい作品じゃないかと思った。ただ、主人公の自問自答の文字ベースになっている部分(具体的には5p最後のコマや9p全体)は個人的に少し読みづらく、わたしの場合は主人公の考えを一生懸命読む形になった。ただ、ここは単にわたしが読み方が下手なんだと思う。読んでいてやりたいことは伝わってくるしこれはこれでマンガとしてよいものだと思うので、今後もこの調子でがんばってもらえたらうれしい。

 

ヤギワタルさん「戻る権利」

戻る権利

 この話は心にぐっと来るものがある話だった。通奏低音として流れている人間観のようなものに暖かさを感じた。また一方、これだけ描けていれば一つのマンガ十分かとも思うが、個人的にはこの主人公が10年前に戻ったときに父親の介護をせずに生きる姿が想像できないと思った。人生の中で、自分にとってはプラスではないと思うがなにかを受け入れて決断するタイミングがあるように思え、この主人公にとっては10年前がそうだったのではないか、というようなことを考える。ただ、わたしはそのように考えたというだけで、この作品の出来不出来の問題ではないと思う。情感がたっぷりあるマンガで色々なことを考えた人がいるのではないだろうか。

 

ねりけしさん「エピソードゼロ」

エピソードゼロ

 このマンガは、なんだかへへっと笑ってしまうようなマンガだった。話の筋も笑いがあるが、キャラクターの雰囲気にどことなくギャグっぽさがあって(1p2コマ目のお母さんや、3p1コマ目のおばあちゃんなど)個人的にはそこで笑ってしまった。話としては悪くはないが、かといってすごく印象に残るという感じでもないかなと思う。ただ、このネタでこれ以上ひっぱるのも難しいと思うのでこれはこれで十分よく出来ているとも思う。この作者の方のマンガは毎回楽しみなので次もがんばって欲しい。

 

山岡兄弟さん「いつもここにいるよ」

いつもここにいるよ

 この作品は内容は決して悪くないと思うのだが、どことなくマンガとしては印象に残りづらい作品だと思った。全体的に出来事のみとして描かれるのでもう少しキャラクターのドラマを描いてほしい、というのが個人的な感想だと思う。